と思わず聞いてしまったのは当然のことだろう。
アントーニョの正妃…正妻であるはずのアーサーは少年である。
子どもが出来るはずはない。
そう、子を身篭らない少年であるからこそ、娶ることになったくらいなのだから…。
「…どう…なさいますか?」
と、アントーニョの質問に答えず質問で返す医師に、アントーニョは今度は疑問を具体的に口にする。
「正妃って…アーサーやんな?」
「はい。」
「あの子…男の子やで?」
「はい。しかし森の民です。」
「森の…民?」
よく意味がわからない…と、思い切り顔に書いてあるアントーニョに医師は苦笑した。
「医師である私ですら今回、出生地の特殊な病の可能性も考えて調べた結果初めて知った事ですので、陛下がご存知ないのももっともです。
結論から申し上げると、森の民はほとんどが男性体として生まれ、一定の時期、一定の条件が揃うと男性体でも子を身篭る一族なのです。」
「はあ???」
もうそんな言葉しか出てこない。
古今東西そんな人間聞いた事がない。
それでも医師が王である自分を騙す意味などないので、それは真実なのだろう。
「…俺の子ども……アーティと俺の……」
言われてみれば、初めてアーサーを抱いたあの夜…自分は確かにおかしかった。
アーサー自身も何かおかしかったと言っていたし、あの夜が医師が言う“特定の時期”だったのだろう。
「森の民はほとんどが男性体として生まれると申し上げましたが、数百年に1度くらい極々稀に女性体として生まれる子どもがいるそうです。
伝承でしかありませんが、その女性体の森の民は風や雲など自然を操り、思いのままに雨を降らせたり雷を落としたりと特殊な能力を持つそうで、昔の権力者は女性体の森の民欲しさに森の民を強引に連れてきたりもしたそうですが、そうやって連れてこられた森の民は女性体どころか子を成すことすらなかったとか…。」
「ほんならアーティはどうして…?」
「おそらく…これは飽くまで様々な情報からでた推測ではありますが、森の民はその相手との子を欲しい…と思った時にのみ、子を成すようです。
そう思わない相手、そう思わない時には、いくら抱かれても実を結ばない、そう思われます。」
…あの子が…俺との子を欲しいて思うてくれたんか……
なかなか心を開いてくれないように思っていた愛妻の思わぬ真実にアントーニョの顔は知らず知らずのうちに綻んだ。
愛する妻と自分が心から望んで出来た二人の子……
生まれてこの方持つことの叶わなかった本当の家族……
「正妃様はおそらく男性体の森の民であった母親が亡くなった頃は幼くていらしたので、その事実はご存知ないと思われます。
なのでまず陛下がどうなさるかを先にお聞きした上で対応させて頂こうかと思いまして、こちらの方に足を運ばせていただきました」
「どうて…無事産めるよう全力を尽くすだけやんっ!
俺の子ぉやでっ?!
大事な大事な…それこそ国より大事な俺の子やっ!!」
と、それだけ言ったあと、こんなことしとる場合ちゃうわっ!
あの子の様子見たらなっ!大事な大事な体なんやからっ!!
と、王は握っていた羽ペンを放り出して立ち上がった。
子どもが出来た…そうわかったから何をすればいいとか、そんなビジョンがあるわけではない。
ただただ大事な妻子、大事な家族を守るには側にいなくては…と、そのことしか頭には無い。
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