炎の城と氷の婚姻_第三章_15

SideアントーニョⅤ


――陛下…お話が……


昼食後、今日もアントーニョは体調の宜しくない愛妻を後宮に残し、イライラしながら仕事をしている。

まずはどうしても後宮の方がきになる気持ちをふっきるように、このところ動きが怪しい雲の国に備えるように強化中の軍の視察。

自身も時折兵に混じって汗を流す。



ギルベルトは嫌がるだろうが、また雲の国とやりあうとなれば、やはり自分が出るのが一番手っ取り早い。

そのためには自分自身も体が鈍らないようにしておかねば…。

そんな思いもあって兵と打ち合いなどしてみる。


(ああ、親分まだまだ現役でいけるやん)

数度の打ち合いで相手を負かして内心そう思いつつ兵を鼓舞して訓練場を退出した。


本当は王として後ろでふんぞり返っているよりは、最前線で戦斧を振り回しているほう性にあっている。


元々王になるには後ろ盾が足りないから軍務につけと将軍家に放り出しておいて、今度は王位につく人間がいないからと、長年勤しんできたものを取り上げられて今度は王宮に閉じ込められるなんて、本当にたまったものじゃないとは思っていた。

なれるはずもない身分の癖に王になれてラッキーじゃないかなどとよく言われるが、結局自分の人生なんて、周りに振り回されるだけで、放り出された場所で懸命に作り上げてきたものを他人の都合で取り上げられただけの、つまらないものだったと思う。


自分で選べるのなら、王になんてなっていない。

本当は農家か各地を旅する傭兵にでもなりたかったが、それが無理なら王よりはまだ将軍の方が自分にあってると思う。


まあ…それを言ったらギルベルトが胃を壊して血反吐を吐きそうだから言わないが…。


そのギルベルトだって、おそらく王の側近になるよりは将軍として戦術だけたてて生きていきたかったクチだろう。

国の都合を考えたらそうできなかっただけで……


それでも王になって唯一良かったと思うのは、アーサーに出会えたこと。

将軍になっていたら、他国の王族と出会う機会などその国を滅ぼす時くらいしかなかっただろうし、そうなったらこんな関係にはまずなれない。


そのアントーニョの愛しい愛しい愛妻は、相変わらず体調を崩している。

最近は食事もあまり喉に通らず、げっそりとやつれてきていて、本当に心配で心配で、気の休まるときがない。


元々体が強いほうではなかったが、初めてだきつぶしてしまったあの日から少しずつ体調が下降している気がする。

しかしながら、それ以来体調を崩されるのが怖くて手を出してはいないし、あれから大分経っているので、あれが原因というのも考えにくい。


そうすると一体何が原因なのだろうか…

と、最近は根本的な原因を調べるように医師に命じていたので、訓練の視察から戻ってきた執務室に医師が控えていて、お話が…と言われたことにはそう驚きはしなかった。


しかしその数分後、医師の口から告げられた可能性の話には、心底驚かされた。

それこそ、今まで生きてきて最大の驚きだ。

前王の子の中では1、2位を競うレベルで王位継承権が低かった自分が王に即位する事になったと聞かされた時よりも、はるかに驚いた。


もう一瞬頭が真っ白になる。

何を言われているのか、それが何を指し示しているのかすらわからない。


なにしろ

――正妃様はおそらくお子を身篭っていらっしゃるのだと思います。

などと言われたのだから。


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