フェイク!verぷえ_第六章_1

(…今日もなんか変だったよな……)

なんだか一緒に暮らして距離が近づけば近づくほど、思い詰めたような不安げな顔をされている気がする……

なのに聞いても特に何も言わないし、視線を合わせれば幸せそうに笑うのが、随分前に忽然と消えてしまった恋人と一緒で、それがプロイセンをひどく不安にさせた。


今日も仕事場まで運転するプロイセンが前を向いているとそんな風に不安な表情を見せる癖に、信号待ちなどで視線を向けると、まるでそんな顔で見ていたなんてなかったことのように、なんだ?と可愛らしい様子で首をかしげてみせるので、プロイセンもそれ以上追及できなくなってしまうのだ。

だってこの関係が壊れてしまうのは何より怖い。

だから今日も黙ってイギリスを送り届けて帰宅して、一通り掃除と洗濯を済ませると、菓子を焼く。

それはイギリスに託してそれを食べると言う理由をつけて3時に休憩を取らせるためだ。

種をオーブンに放り込んで十数分。
美味しそうに焼けた菓子をオーブンから取り出して冷ましていると、キッチンをキラキラとした光が舞い始める。

あいにくとプロイセンには光としか見えないそれは、イギリスいわく、妖精達なのだと言う。

見えないからと言って別にプロイセンはそれを否定するつもりはない。
おそらくそれは自分には視覚できないだけなのだろうと思う。

なぜなら、
「ちょっと粗熱取れるまで待っててくれ。
そしたら切ってミルクと一緒に提供するからな」
と、プロイセンがそう言うと、光は嬉しそうに明滅するのだ。

イギリスの言うように愛らしい少女の形をとっている存在なのかは別として、それは確かにこちらの言葉に意思を持って応える存在と言う事だ。
イギリスの大事な友人、そう認識すれば、もちろん粗略に扱って良いはずはない。

だからプロイセンは敬意を持って彼女達に語りかけ、謹んで彼女達が好きだと言う菓子とミルクを毎日提供させて頂くのだ。



「本当に…あんた達の声が聞こえて意思の疎通ができりゃあ色々相談できんのにな」

プロイセンは粗熱が取れたクーヘンを小さく切り分けて皿に何切れか取り分け、ミルクの皿と一緒に妖精達を引きつれてリビングの一角、バルコニー近くの明るい場所に置かれたコンソールにそれを置いた。

窓は開け放してあるので、それを見て庭でふわふわ浮いていた光も集まってきて、皿の周りがキラキラと輝きだす様子は、とても綺麗だと思う。

それで少し気が緩んだのだろうか…独り言のつもりでついついそんな言葉を零してみると、いくつかの光がまるでその言葉に反応したかのように──実際にそうなのだろうが──ぴたりと明滅を止めたかと思えば、ふわりふわりとギルベルトの肩口に飛んできた。

姿は相変わらず見えないが、肩に本当にかすかな小さな重みを感じる気がする。

「なんだ?もしかして心配してくれてんのか?ありがとな」
と言うと、また明滅を始めたので、正解らしい。

イギリスが心を許している友人達…
彼女達に受け入れられれば、いきなり消えられる事もない気がする。

「もう一方的になるけどな、イギリスのことだから、聞いてくれ」

なんだか心強い友人を得た気がしてきて、思いの丈を打ち明けたくなって、話し始めた。



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