炎の城と氷の婚姻_第三章_11

SideアーサーⅧ


相変わらず体調がよくない…。

最近は特にクラクラとよくめまいがする。


吐き気もおさまらずあまり食べられないため、目に見えてやつれた感があり、それでなくても美しいとはいえない自分がそんな風にさらに見苦しくなった姿を出来れば見せたくないと思うのだが、王は仕事の合間を縫っては離宮に訪ねてくる。



最近ではなんだか有力貴族の娘である妃の一人からの贈り物を携えてくることもあり、敵対心を向けられるよりは良いのだがあまり人付き合いの得意ではないアーサーは、その礼にもしばしば苦慮していた。


贈り主はおそらく以前庭を散策中にみかけた、あの美しい令嬢だ。

本当に本当に高貴な美しさを持った女性だった。

特別に王に物を託けられるということは、おそらく数居る妃の中でも王が特に目をかけていて、特別に訪ねている妃なのだろう。


王は自分の事を想ってくれていると言っていたが、日常的にそんな美しい女性を見ている王にこんな見苦しい姿を見せてはさすがに疎まれると思う。

そんなこともあって、余計に王の前に出たくないと、王が来る時間はなるべくブランケットをかぶって眠ってしまうことにしていた。


それが王にしてみれば顔を見に来るたび床に伏せっている…体調が悪いのだろう…目が離せない…なるべく頻繁に様子を見なければ…となることなど、全くわかってはいない。


ギルベルトが胃薬を握り締めながらもなんとか解消したかに思えた認識の違いだったのだが、それからそう経っていないにも関わらず、二人は相変わらずすれ違っている。


それでも昨今は雲の国の動きが怪しいと言うことはギルベルトから聞いていて、アントーニョもさすがに後宮にばかりは篭っていられないということはわかる。


朝起きて愛妻の無事を確認すると、自分だけベッドを抜け出して身支度を整え、王宮へと急ぐ。

そこでさらに早い時間から仕事に勤しんでいるギルベルトから現状の報告を受け、必要であれば書類にサインをし、その後、急いで後宮に戻りアーサーと食事。

それからまた王宮に戻って仕事。

昼食は後宮。

それから王宮にダッシュして、夕食は後宮…というように、食事と寝る時間だけはなんとか愛妻と過ごそうと努力しているアントーニョだったが、もちろんそんなハードな状況は体調の悪い幼い妻にはいえないと黙っている。

そのため、アーサーの方は最近共に過ごす時間が減ったのは単純に王がこの贈り物の贈り主である妃のところですごしているのだろうと、こちらも王にそう尋ねることもなく、口にすることなく、心のうちで思っていた。


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