確かに聡明で賢明な娘ではあったが、同時に賢明すぎてこれまで全く恋愛というものを経験することがなかったゆえに、恋愛という感情について非常に免疫がなかった彼女にとっては、今のこの状況はとても辛いもので、彼女のメンタルは限界だった。
なのに今日届いた父親の手紙は相変わらず『王のお手はついたのか?』という無神経な言葉から始まっており、彼女をイラつかせる。
それ以上読む気がせず燃やしてしまおうかと、その手紙を指先でつまんで暖炉にくべようとした瞬間、チラリと目の端に――森の国…という文字が止まって、マルガリータは手を止めた。
マルガリータを苛つかせる原因となっている正妻の故郷…。
何の気なしに気になって視線を走らせると、そこにはとんでもない事が書いてあった。
雲の国が秘密裏に森の国と結び、近々太陽の国を攻めようとしている。
森の国の側はもちろん大した戦力にはならないが、現在送りこんでいる正妻の少年に王の暗殺を命じる予定だ。
元々現王の手腕で持ち直した国なのだから、王が倒れれば太陽の国はたやすく倒れるだろう。
だからマルガリータには出来る限り王の暗殺に協力し、その後戻って来いという。
いつもの手紙の『王のお手はついたのか?』という言葉は早くお手つきになれというものだったが、今回のは逆の意味だったのである。
王のお手がついていないなら幸いだというのだ。
これにはさすがのマルガリータも頭にカーッと血がのぼった。
それが何に対してなのか、自分がどうしたいのか、どうすべきなのか…それは賢い彼女にも瞬時にはわからない。
そこで彼女は自問自答する。
まず国を滅ぼしたいのか?
王を殺させたいのか?
以前ならば父の言うとおり王の暗殺を手助けし、それを土産に雲の国での地位をあげることに何の迷いもなかっただろう。
が、今の彼女は恋する女だ。
王を死なせると言う選択はありえない。
しかも…その愛しい王の寵愛を一身に受けている憎むべき正妻に協力して…などという事はもっとない。
そうなると選択は二つ。
父に背いて王を助けるか、父を説得して王を助けるか…。
目指すは後者だ。
味方は多い方が良い。
それにはまず…国を滅ぼした事によるデメリットと国と王を救った時のメリットを考えなければならない。
そこまで思考が到達した時、(…ああ……)とマルガリータの顔に暗い笑みが浮かんだ。
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