――王のお手はついたのか?
もうこれで何度目だろうか…。
毎週のように送られてくる父からの手紙に、マルガリータはギリっと奥歯を噛みしめた。
王は自国の貴族を嫌っている…。
ゆえにその縁の娘を正妃にしたくない。
それはマルガリータがこの後宮に入る前からわかっていた事だ。
そもそもの原因は前王の時、国土のほとんどを隣国である雲の国に占領された時点で、多くの貴族がこの太陽の国を見限った事にある。
かく言うマルガリータも父親と共に太陽と雲、両方の国に囲まれた小国、霧の国に避難していた。
霧の国自体が小さな国ではあるし太陽の国が滅んだあとは雲の国の矛先が向く可能性は十分あり安全とは言えない場所ではあるが、そこは父の打算と根回しがモノを言った。
万が一、太陽の国が滅ぶことがなかった場合、敵国である雲の国に身を置けば自国に戻れなくなる。
だから母親の伯父である雲の国の宰相に交渉した結果、そのまま太陽の国が滅べば雲の国に安全に迎え入れられるように手配されていた。
結果…太陽の国は現王アントーニョ・ヘルナンデス・カリエドの元でおおいに持ち直し、マルガリータも父と共に帰国して今に至っている。
貴族の多くが無策に敵国である雲の国に身を寄せて立場を失くしたのに対し、マルガリータの父であるグラッド公は飽くまで第三国へ一時的な避難と言う事で、大いに面目を保ったのだ。
もちろん中にはバイルシュミット将軍のように飽くまで自国に残った貴族もいるが、王家に連なるグラッド公を始めとする大貴族達とは元々の身分が違う。
ゆえに敵国へ渡らなかったというだけで、その大貴族の中でもグラッド公は国内で最も有力な貴族となったのである。
そんな父が次に目指したのはもちろん王の一番近い血筋になる事だ。
つまり、王の直系親族の祖父、王の子の祖父になるために、マルガリータを後宮に送った。
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