全員なぜか日本が持ち歩いていた暗闇でもばっちり見える赤外線付きの双眼鏡を持っている。
寝室の奥に見えるイギリスの広いベッドに目を向けた瞬間……!!
気配を感じて反射的にアメリカの腕を引っ張る日本。
日本のいる左側に大きく傾くアメリカの巨体。
ザシュッ!と乾いた音に、ぎぎ…と、ぎこちない動きで視線を向ければ、それまでアメリカが立っていた場所の後ろの壁に弾丸がめり込んでいた。
ひっ!!と息を飲み込むアメリカ。
フランスはというと、ちゃっかりドアの影に隠れている。
そこに凍りつきそうなほど冷やかな声…
──…プロイセンが護っている場所に飛び込んできたってこたぁ…そういうことだよな?
今度はそれが聞こえてくる方向に視線を移せば、にやり…と、ベッドの上で半身を起して冷めた目で笑みを浮かべる人影…
きっちりと握った銃の銃口をアメリカの額に合わせている。
反射的にピクリと震えると、カチッと銃口に手が伸びた。
「ち、違うんだぞっ!」
「ほぉ~?何が違うんだぁ?」
全身に汗をびっしょりかきながら半泣きで言うアメリカ。
少しでも動けば弾丸が飛んで来そうで首を横に振る事さえできずにいる。
一方で全く感情のない笑みを浮かべながら、あくまで静かな声音で言うプロイセン。
獲物を追い詰める肉食獣のようなオーラを放ちながら一部の隙も見せずにこちらを窺っている。
元々この2人は厳しくしごいた教官としごき抜かれた生徒の関係だ。
プロイセンに対しての畏怖はアメリカの骨の髄まで染み込んでしまっているところにこれだ。
敵うはずがない。
「…んぅ…ん……」
と、その時聞こえた小さな声。
通常なら聞き逃しそうなそれも、シン…と静まり返った部屋の中でなら注目を集める。
…ぎる……?
とやや舌足らずな声に、プロイセンは視線はドアの侵入者に向けたまま、銃を持つのと反対側の手を丸く黄色い頭に柔らかく滑らせた。
「ああ、気にしねえで良い。
ちょっとな…ネズミ退治してっから…。
大丈夫。アルトはなんにも心配しないで良いから寝てろ。
俺様ちょっと戸締りしてくるわ…」
ドアの方を見張る視線は鋭いまま、声音だけがとても甘く柔らかい。
半身起こしたままの状態でそう言って、どうやら移動する事にしたのかプロイセンがベッドを降りようとするが、まだ寝ぼけているらしいイギリスの細い腕がぎゅっと腰に巻き付いたままで、降りられない。
それに苦笑すると、
「ちょっとだけな、ギー君と交代だ」
と、プロイセンは枕元のグレーの毛並みのクマのぬいぐるみをその手に握らせる。
するとイギリスはそれをぎゅっとだき込んでプロイセンの胴から手を放した。
「驚いた…。
あの野生動物みたいな坊ちゃんがこんなに近くに他人がいても起きないのって初めてだよ…」
そのままプロイセンにまた頭をくしゃりと撫でられてすやすやと安心しきったように眠るイギリスの様子に、ドアの影からフランスが目を丸くする。
それに対して
「当たり前だろ。
生まれながらの騎士のプロイセン様が全身全霊で守ってるんだ。
誰にだって指一本危害加えさせたりしねえってわかってんだよ、こいつだって」
そう言うプロイセンの表情はどこか得意げだが甘やかな響きがある。
そして…それに危機感もすっ飛んだのか、命より大切なオタク魂なのか、日本がいきなりメモ帳を取りだして、ものすごい勢いでメモを取りだすのに、さすがに毒気を抜かれたのか、プロイセンはそこで初めて小さく吹きだして言った。
「アルト起こしたくねえし、リビング行くぞ」
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