あ……また……
アーサーは違和感を感じて自らの腹に手をやった。
自分とは違う何かが息づいているような感覚…。
それはあの夜…王に始めて抱かれた夜からずっと感じ続けている物だった。
それはひどく唐突に起こった衝動だった。
離れて休んでいる間にまた体調を崩すのは怖い…と言った王。
それなら離れなければ、同衾していれば、と、勧めたのは、単純にずっとベッド脇の椅子で眠っている王の体調を心配したからで、他意はなかった。
だが、いざ王を隣に感じてみると、何故だか今までにない飢餓感にとらわれた。
欲しい…と感じたのは何に対してだったのか…。
アーサーがそれを分析する間もなく、王がいきなり覆いかぶさってくる。
そもそもが最初に倒れた時にはずっと王の部屋に運ばれてそのまま普通に何もなく一緒に寝ていたのだから、何故いまさら急になのかわからない。
しかしまるでアーサーの飢餓感が移ったかのように、王はアーサーの体中に愛撫を施し、飢えた獣のように貪った。
初めての体験で…しかし戸惑う余裕もなく、アーサー自身も自分の飢えが満たされて行く事に夢中で、ただただ王を受け入れる。
どうかしている…と、本来はそんな欲を感じるはずのない同性相手にそんな気持ちになってしまった事に対して今更ながら思うわけだが、何故かその時はこれが全く正しく当たり前で必要なものなのだ…と、疑いもなく思ったのだ。
そうして一つになって満たされて、そして…また欲しい…と思った。
汗が光る褐色の肌。
情欲をたたえた瞳。
荒い息のしたで
――自分に…親分の子…孕ましたい……
と、男らしい低く艶っぽい声で囁かれて、身体の奥がきゅん…と疼く。
何かが身体の奥底から降りてきて、受け入れようとしているような錯覚を覚える。
――孕ませて…
と思わず応えた声は、まるで自分のものではないように欲に濡れてかすれていた。
そうして互いに獣のように求めあい、熱い生命の息吹を受け止めた時…身体の最奥で何かが実った気がしたのだ…。
熱い異物感……それはそれからもう一月以上たった今でも続いている。
いや…続いているどころか、大きく育っている気がする。
そしてここ数日続くダルさ…。
なんとなく食欲がなく、それでも王の目もあるので無理に食べようとした時に襲ってきた吐き気にアーサーは青くなった。
ありえない…そう思って打ち消そうとしても頭の中から離れない可能性……
――あんたの母親は男だったんだよ
それははるか昔の記憶だった。
アーサーが幼い頃から世話をしていた老女の言葉…。
さも汚らわしいと言わんばかりに顔をゆがめ、何度も何度も吐き捨てるように投げつけられ続けた言葉だ。
「王は何故森の民なんて気持ち悪い人種を側に置いたんだかね…。
同性でも欲を感じれば子が出来るなんて、気味が悪い。
あんたを身ごもってる時のあんたの母親は、それはそれは醜悪な生き物だったよ。
ゲテモノ趣味の王でなければ叩き殺してるところさ。」
アーサーは幼い頃亡くなった母親の事をほとんどと言って良いほど覚えていなかった。
ただおぼろげにある記憶の中の母親はドレスではなく、長衣を身にまとっていた気もする。
気がする…程度の記憶なので、それが男性だったのか女性だったのか、はっきり断言する事は出来ない。
しかし周りを見ても男で子を産むなどという者は見た事がなかったし、老婆は元々王族でもなく貴族でもない余所者なのに父王の寵愛を受けてアーサーを産んだ母親を嫌っていて、当然その子であるアーサーの事も嫌っていたので、嘘をついているのだ…と思っていた。
しかし今…その言葉が頭の中をぐるぐる回る。
確かにあの夜…自分は何かおかしかった。
制御出来ない飢えと欲。
それがおさまっても何か身体の奥に感じる異物感……。
ありえない…。
アーサーは1人部屋で首を横に振った。
男である自分が同性である王との交合で子を身ごもった…
そんなバカバカしいことを考えるなんてどうかしている…。
おそらく自分は他の妃に…伴侶として愛される側室達にコンプレックスを感じているのだろう。
だから子の産めぬ同性の正妻という立場に対する引け目から、王の子を産めたら…などと無意識に思いこんでしまったに違いない。
胸元に繊細なレースの施された白い長衣は全体的にふんわりとした造りで体型があまりわからないようになっているが、布地の上から触れてみた。
このところ若干太った気はする…が、よく子を身ごもった女性がそうであるように二回りも見回りも腹まわりがふっくらしてきたという事はないように思われる。
そう…気のせいだ…ありえない……
アーサーはそう思う事にして、気を紛らわせるために刺繍にいそしむ事にした。
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