炎の城と氷の婚姻_第三章_03

久々に空腹感で目が覚めた。

ぱちりと瞼を開けると空が薄暗い…。


…明け方…か…

アントーニョは身を起こそうとして、腕の中に何かを抱え込んでいる事にきづく。

何か小さくて自分より少し冷たくて心地よいもの……

寝ぼけ眼でそれをさらに深く抱え込もうとして、はっとした。


ああっ!!やってもうたっ!!!!
夢とかいうこと…ないよな…?
おそるおそる胸元に視線を落とすと、泣きすぎて赤くなった目元や頬が視界に入る。

そこで昨夜のそれが現実だった事を再認識して、アントーニョは青くなった。


うあぁぁああーーー!!と焦りながらそっと半身を起こし、まだ眠る花嫁の状態を確認して思い出す。

そうだ…昨夜は急にこみ上げて来た劣情をどうしても抑えきれずに半ば強引にだいてしまった…。

それだけではなく、だき潰したあげくに後始末もせずに眠ってしまったのだった。


もちろん可愛いし愛おしいし、全くそう言う気が起きないと言えば否なのだが、何故昨夜はあんなに理性が効かなかったのかが自分でもよくわからない。

まるで熱にうかされたように、どうしようもなく欲しくなって半ば強引に奪ってしまった。


自分でも理不尽な衝動に説明がつけられないのに、起きた花嫁になんて言っていいのかわからない。


そんな風に自分の気持ちの整理もつかない状態なのに、目の前の花嫁は抱え込んでいた体温がなくなったせいなのか、…ううん……と身じろぎをして、ゆっくり目を開いた。


まだ寝ぼけているのだろう…ぽやぁ~っと目の前で半身を起こしているアントーニョを見あげて来る。


ああ…どないしよ…でもとりあえず……


「乱暴にしてゴメンなっ!堪忍!!」

ガバっとその場で土下座した。


「…王……」

と、その勢いに完全に意識が覚醒し、また現状を把握したらしい。

花嫁は真っ赤な顔でシーツを引き寄せると身体を隠した。


「…あ…あの……」

「堪忍っ!なんや昨日は急にアーティの事どうしても欲しくなってもうて…止められへんかったんや。

体調もまだ完全やないし、なにより初めてやのにあんな突然乱暴してほんま堪忍。

身体…辛いやろ……」

と、状態を確かめようと手を伸ばすと、花嫁はぎゅっと目を閉じて縮こまる。


「…あ……堪忍……」

怯えられて当然だ。

睡眠不足な自分の身を案じてくれていたのをいきなり襲ってしまったのだ…。


なんて事をしてしまったのだろう…と、さすがにアントーニョが肩を落とすと、即

「ち、違うっ!」

と、声が返ってきた。


アントーニョの腕におそるおそる触れられる花嫁の小さな手。


「違う…昨日はなんか俺も…おかしかったし……」

消え入りそうな声に顔をあげると、さきほどよりさらに真っ赤に…それこそ耳元まで真っ赤に染めた花嫁が羞恥に潤んだ目でアントーニョを見あげていた。


「…ただ……少し恥ずかしい……だけ。」

ぷつん…と何かが切れそうになった。


(…かっわ可愛えぇぇええーーー!!!!)

その愛らしさに悶え転がりたいのを根性で堪え、


「無理やりすぎた思うててんけど、それなら良かったわ。

次からはもうちょいゆっくり優しゅう出来ると思うから。

とりあえずあのまま寝てもうたから気持ち悪いやろ。

風呂入ろうか」

と、だき上げようとすると、花嫁は首をぶるんぶるん横に振って動揺する。


「無理っ!1人で入れるからっ!!」

わたわたと顔を赤くしながら涙目で訴える様子が可愛らしくて、思わず笑みがこぼれてしまう。


「そんなん言うても、昨日そのまま始末せんかったから、風呂行くまでに床汚してまうで?
ま、朝になったらゾフィーがちゃんと片付けるかもしれへんけど。」

と言うとピキンと固まる。


アーサーはゾフィーに対してはひどく緊張するようなので、つい名を出してしまった。

意地悪だったか…と思いつつも、花嫁の身体にこれ以上の負担はかけたくない。

そこはアントーニョ的には譲れないところなのである。

ということで、その固まった隙にアントーニョは花嫁をシーツに包んでだき上げた。


こうして風呂で全裸で身を清めてみても、可愛いなとは思うし、全てを知る以前と違ってその甘露を味わって知ってしまったあとだと若干ムラっとくる時がないとは言わないものの、昨夜のような激しい衝動は沸いてこない。


一体あれはなんだったのか…。

体力が回復しきってない上にだき潰してしまった後なので、色々をぬるめの湯で流してやり自分もサッと身体を洗うと、今度はバスタオルにアーサーを包んでだき上げる。


そして一旦アーサーをソファに運んで、自分は恐縮するアーサーを制して速やかにベッドのシーツを換えた。

そのあたりは普段から自分の事は自分でやる主義なのでお手の物だ。


…とはいっても、汚れものは残るわけで……

朝、花嫁の容態を見に来たギルベルトに烈火のごとく怒られたのは言うまでもない。



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