フェイク!verぷえ_第四章_2

時計はそろそろ0時を回ろうとしている。

一応会議後に懇親会という形での食事会はあったものの、翌日も午後からとは言え会議が続くため、酒も控えめ、時間もほどほどに設定したのだが、それでも主催国と言う事もあり、全ての仕事を終えたイギリスを伴って帰宅の途についたのは夜の10時。


それから、イギリスを風呂に放り込んで、自分はあまり食事を取れなかったので軽く食べ、イギリスの着替えを用意し、風呂からあがって来たイギリスの髪を乾かしてやって、ベッドに放り込むと、ティディをだきしめて即落ちするイギリスを横目で見ながら、翌日の自分とイギリスの着替えを用意する。

どれだけ夜が遅かろうとプロイセンは朝は早く決まった時間に目覚める方なので、自分のシャワーは朝に回して、自分もパジャマ代わりのTシャツとショートパンツを身につけて、すやすやと熟睡中のイギリスの隣に潜り込んだ。

その時点でお役御免のティディはベッドのまくら元に移動。

スルリと丸い黄色の頭の下に腕を入れて枕がわりにしてやると、すりりとすり寄って来て、プロイセンの胸板にこしこしと額を擦りつける癖は、よくやる人間が居るのだろうか?

以前一緒に暮らしていた恋人も、同じ癖の持ち主だった。

だから最初に先に眠っているイギリスの隣に横たわってそれをやられた時に、プロイセンは随分と動揺したものだ。

他はどうなのかなんて、長い人生の中でも2人きりしか同衾する相手を持った事がないプロイセンには知りようがなかったし、かといってそんな極々プライベートな事を語るような事も出来ずにいるのだが……

(…お前は…消えねえよな……)

そのこと自体はかまわないのだが、重なるところを感じるとひどく不安になって、柄にもなく束縛をしたくなる。

そう言えば最初は相手に押し切られる形で始まったところも同じなのだが、いつのまにか自分の方が執着して手放すのが恐ろしくかんじられるようになるのも、あの時と変わらない。

(…放したくねえ……)

と、気づけばそんな事を思い、自分よりもまだずいぶんと細い、少年のような身体をだき寄せ、丁寧に乾かしてやったためふわふわになった金色の髪に口づける。


理性的で合理的、自他共にそんな風に思い思われてきた自分だが、プライベートで懐にいれてしまうと、意外に執着する性質らしい。

一緒に暮らして朝から紅茶を淹れて起こして朝食を食べさせて…着替えも通勤もランチも帰宅後の食事に風呂、髪や肌の手入れまで全て管理してしまうのは、おそらくそんな執着の表れだろう。

昔…南イタリアに対するスペインの過保護ぶりに眉をひそめたものだが、実際に今の自分の過保護ぶりはそんなものじゃない。

あのスペインですらロヴィーノに掃除やら家事をやらせようとはしていたのだ。

それに比べて自分はどうだ。
イギリスが日中仕事に行っている時間以外は、全てをやってやっている。

自分の存在が少しずつイギリスの心臓に杭のようにくいこんでしまえばいいとばかりに…。

そう…もう二度と逃げられたりしないように……

ああ…こんな自分の心の内を知られたなら、アメリカどころの厄介さではないと思われるのは確実だ。

だから上手に隠さなければ…。

上手に静かに少しずつ…イギリスが自分なしで生きていけないように、細く透明なテグスで絡め取るように縛っていかなくては……

だってよ…もう俺様は耐えられねえんだよ…あの喪失感には……

──だから…ごめんな?その代わり世界のなにより大切にするから……

毎晩のように眠りに落ちる前にそう思うように今日も思い、いとけなさすら感じさせるイギリスの広い額にそっと口づけて自らも目を閉じようとした瞬間…小さくベルが鳴った。

それは訓練されたプロイセンでないと聞きとれないくらい小さな小さな音。

ドアが開くと、緩やかに張り巡らされたテグスが揺れて鳴るように仕掛けたもので、本来は自分が寝ている間に家の中から出て行かれないようにというものだったのだが、今、自分以外の唯一のこの家の住人はプロイセン自身の腕の中ですやすや寝息をたてている。

──…ってことは…侵入者か……

内心ひどく警戒しながらも、イギリスを起こしてしまわないようにぎりぎり殺気を抑えて枕の下に忍ばせてあるサイレンサー付きの銃に手をやった。

そうしてプロイセンは待った。

音色の違うベルの音を聞きながら、一路この寝室を目指してくる足音の主を……


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