出来うる限り優しく促しながら、スープの匙を口元に持って行くと、おずおずと小さな口を開く。
そしてスープが口に消えて飲み込まれるのを確かに見届けて、アントーニョはため息をついた。
高熱だった熱が微熱と言えるくらいに下がるまで3日かかった。
最初の頃は意識も朦朧としていて、医師から脱水症状だけは起こさせないようにと水分だけはなんとか摂らせるようにしたものの、飲ませようとする水は半分くらいは口の外に流れてしまう。
仕方がないので最後に口移しで飲ませたら、ひどく動揺して泣かれてしまった。
口までブランケットで覆いながら目だけを出して、ひっくひっくとしゃくりをあげる様子はめちゃくちゃ可愛い。
もう転げまわるレベルで可愛らしくて、こんなに可愛らしいならもう全てがどうでもいいじゃないか…と思いかけて、ハッと気づく。
ダメだ。
水分を取らせて出来れば栄養のある食事をさせて薬を飲ませて元気にしてやらなければ。
そこでもう一度口移しで水分を取らせようとすると、断固として拒絶される。
あまりにきっぱりと拒絶されるので秘かにショックを受けていたら、おずおずと消え入りそうな声で
…陛下にうつったら…ダメだから……
ゴン!とアントーニョはベッド脇のサイドテーブルに頭をぶつけた。
あかん…可愛え……どないしよ………
いや、確かに立場的にはそうなのかもしれないが…アーサーの立場になれば誰しもそう言うのかもしれないが…この子が言うと悶え狂いそうに可愛い。
「親分な、丈夫さだけは筋金入りやから、このくらいやったらうつらへんし、万が一うつっても親分やったら半日で治るから心配せんとき。」
ああ、もうそれも良いと思う。
自分だったらうつしてくれれば半日もしないうちに治して見せる。
むしろそれでこの子が元気になるなら全然構わない。
そんな感じでなだめすかしつつ、すったもんだで3日間。
高熱というほどではないが、微熱は下がる様子もなく、幼い花嫁は毎食アントーニョの感覚だと命を維持するにはあまりに足りない数匙のスープをなんとか飲み込むのみで、どんどん弱っていく気がして、気が気ではない。
少しの時間だけと目を離したらあっという間に衰弱死してしまいそうだ。
それをどうにかしようと、結局自室で看病していた時と同じく、今度は後宮にこもりきりである。
そんな状態なのに、花嫁はしきりと仕事は良いのかとか、
「陛下がずっとここに居られたら、他のお妃様達が寂しい思いをすると思う。」
とか、愛らしくも可憐な様子で心配をしてくるので、余計に目が離せない。
いまだかつて他の妃の気持ちまで心配するような優しい妃がいただろうか。
本当に見かけも雰囲気も、心根までも純粋であどけなくて愛らしい。
そんな白すぎる花嫁だからこそ、本当に早々に天に召されてしまいそうで恐ろしい。
なのに日々ギルベルトが早く執務に戻るようにと使いを送ってせっついてくる。
本当にそんなどころではないのだ、と、その都度おい返すのだが、東に不穏な動きがあるから至急と言う話まで出てきては、さすがに放置するわけにもいかず、
「すぐ戻ってくるさかい、何か容態変わったら絶対に即知らせてや」
と、くれぐれもと残していく医師に言い渡して、アントーニョはいったん王城へと戻って行った。
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