炎の城と氷の婚姻_第二章_4

「オーラ、親分やで~」


やれやれ酷い目にあった…と思いつつも、マルガリータのおかげで自縛霊のようにへばりつく妃の群れを越えて、アントーニョはようやくたどり着いた離れのドアをご機嫌で開けた。


まあ…他の妃達のように、あの子が自分の声を聞いて飛び出してきてだきついてくれるとは思わないが、

「おかえりなさいませ、陛下」

と、まず出迎えてくれるのが、華も色気もない老女官なのはあまり嬉しくない。

嬉しくはない…が、出迎えてくれてしまったものは仕方がない。


「これ、リビングにでも置いといて。

アーティはどないしてん?刺繍でもしとるん?」


と、さきほどの花籠をゾフィーに渡し、返事を待たずに廊下を進んでリビングへのドアを開くが、そこに愛しい小さな花嫁はいない。


「陛下が本城にお戻りになってすぐ、庭に出てくるとおっしゃっていらっしゃいましたが。」


アントーニョに続いてリビングに入り、ドアの横の小テーブルに花籠を置きながらそう答えるゾフィーに、


「そんならいくらなんでももう戻って来てるんちゃう?寝室かいな。」

と、少し首をかしげて、アントーニョはさらに奥の寝室のドアを開いた。



そこは後宮の中では珍しく、上質ではあるが比較的硬質な部屋。

一歩足を踏み入れると、カツンと靴音が響く大理石の床に、アントーニョは少し眉をひそめた。


基本的に同性の正妻用、つまりは男性が暮らす事を前提にした部屋なので、全体的に武骨すぎる…と、感じる。

自分は足元がふわふわしているよりはしっかりと力を入れて床を踏みしめられる方が好きだが、あの子には少しでも柔らかく衝撃の少ないものの方が良いかもしれない…。


一応今でも早急にポイントポイントには絨毯を敷かせたが、やはり今度部屋全体に柔らかい絨毯を敷き詰めさせよう…そう思いつつ、部屋の奥、重厚な天蓋がかかるベッドへと歩を進める。


…これも、天蓋の布を薄いふわふわのレースとかのものにした方がええなぁ…。

と思いつつ、庭の散策で疲れてしまったのであろうアーサーが寝ているせいだろう、やや盛り上がったブランケットの所まで歩を進め、眠っているなら起こさないようにとソーっとブランケットの端をめくって…固まり…次に顔色を変えた。


まだふっくらと幼さを残す頬に涙の跡。

それにそっと手を伸ばすと、アントーニョはさらに顔色を変え、そして叫んだ。


「ゾフィー!医者呼んだってっ!!」



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