生贄の祈りver.普英_7_3

こうしてアーサーの初めての舟遊びは雨で中断になり、城へと引き返した。

ルートは有無を言わせず風呂に直行で、アーサーは先に身体を拭いたあとに念のため医師の診療を受ける。



そこでギルベルトは
「ごめんな…俺様ちょっと雑念多すぎて天気見んの忘れてたわ」
と、ガリガリと頭をかいた。

「ほんと、ごめんな…わざとじゃねえんだけど…
どうもアルトが関わると色々が抜けちまうっつ~か…
いつもお前を危ない目とか嫌な目とかあわせてまうな。
喜ばせてやりたいんだけどなぁ…。
今日こそ楽しませてやろうって思ったのに雨に濡らしちまうし…」

「そんな事ない。すごく楽しかった!」

と、アーサーが言うと、ギルベルトの表情が少し和らいで
「なら、良かった。また行こうな?」
と、笑みが浮かぶ。

こんな強くて賢くてしかも容姿も優れた人間なんてアーサーは見た事がない。
しかも強国の王様で……そんな相手がこんな風に自分に優しくしてくれるなんて、本当に現実なんて思えない。

もしかしたら自分はあの最初の襲撃で気を失って、自分に都合の良すぎる夢でも見ているんじゃないだろうか…そんな風に思う事がしばしばあって、それを口にすると、ギルベルトの綺麗な切れ長の紅い目がまんまるくなった。

そして一瞬の間のあと、苦笑が零れ落ちる。

「俺様は…人当たりの良い方じゃねえし、むしろ嫌われねえように必死なんだけどな」
と言う言葉は、アーサーからしたら信じられない。

だってギルベルトはいつでも優しくてカッコ良くて、一緒に居たら誰でも好きになると思う。

しかし本人の自己評価は違うらしい。

「あのな…白状すると…だ、実は風の国がお姫さんの事をすっげえ欲しがってる」

「…風の…国?」

どこかで聞いたような…と思っていると、

「お姫さんがここに来る途中で襲撃してきた国な」
と、補足が入って、思い出した。

そう言えばそんな事があったな…と、思い出したアーサーに、ギルベルトは一通の封筒を手渡した。

「お姫さんに風の王から」
と言われておそるおそる封を切った。

封を開けた途端香るややキツイ香水の香り。
それに少し眉を寄せて、透かし入りの凝った便せんに目を走らせた。

「…内容は…お姫さんが生まれたての頃に自国に引き取る契約を結んだのに、森がうちの国にやってしまったから、改めて引き取りたいとか、そういうこと…か?」

聞かれて頷く。

風の国がいかに優雅で美しくて素晴らしい国か、その国で暮らせる事がどれだけ幸せな事かなどが綴られてはいるが、要約するとそう言う事だ。


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