楽しみな気持ちが止まらない日本。
いつも会議場入りは早い方ではあるが、今日は特に早く、一番に乗り込んだ。
そして…乗り込んだ甲斐はあったと実感する。
イギリス主催での世界会議だと言うのに、何故かいるプロイセン。
重い書類の束を両手でフラフラと持つイギリスからひょいっと取りあげて片手で持ち直すと、そのうち一番上の束だけを取ってイギリスに渡す。
「……俺だって持てるぞ…」
と、自分がいっぱいいっぱいになって両手で持っていた量の紙の束を軽々と片手で抱えるプロイセンに不満げに頬を膨らませるイギリスは可愛い。
さすが、私の心の嫁!と、その様子の一部始終をスマホで撮る日本。
これはあとで台湾さんとハンガリーさんにも見せてさしあげなくてはいけませんね、と、心の中で思う。
そんな日本はさておき、プロイセンはそのあたりはフランスやアメリカと違って、イギリスの言う事にいちいち異議を唱えない。
「お前に書類が持てたって、俺様は主催国じゃないし各国の席順わかんねえから、反対の分担はねえだろ?」
とかわすところがうまいと思う。
そういう言い方をされてしまえば、イギリスだって意地をはったり拗ねたりする事もなく、
「…それは…そうだけど……」
と、淡々と書類を配り始める。
そんなイギリスをみやるプロイセンの目の優しい事…。
罵倒してなんぼのプロイセン式訓練や、傲慢とも思える立ち振る舞い、そして勝利のためには精密な策略をめぐらす元軍事国家として名高いプロイセンだが、過去にその教示を受けた事ある日本から見れば、プロイセンは実は非常に空気を良く読む優しく誠実な青年である。
しかしながら、その優しさ以上に、イギリスに向ける視線にはどこか甘さが含まれている気がした。
いつでも愛に飢えていて、でも不器用で愛情を素直に受け取れない、繊細で傷つきやすい心を持つイギリスを、日本はいつも心配していたものだが、ああ、良い相手を見つけてくれました…と、子を見る親のような気持でホッと安堵の息を吐きだした。
「爺…いつまでそこにいんだよ。
入って来て座ったらどうだ?」
と、こっそりとドアの影から見ていたのだが、プロイセンには気づかれていたらしい。
苦笑いとともにドアをしっかりと開けられた。
「気づいていらしたんで?」
と、そこで遠慮しても意味がないので素直に室内に入ってどっこらしょと空いている椅子に座らせてもらうと、
「日本っ!今日は早いんだなっ!」
と、イギリスもキラキラした目を向けてくる。
そして
「この書類は配布し終わったが……」
とチラリとプロイセンに物言いたげに視線を送ると、そこは以心伝心なのだろう。
「おう、じゃ、その書類の国名に合わせて俺様あと書類配布やっとくから、爺の相手してやってくれ。
せっかく御老体で頑張ってイギリスまで来たんだろうしな」
ケセセっと笑って口は悪いながらも日本、イギリス双方に気づかいを見せるのはプロイセンのプロイセンであるがゆえんだ。
ここでヨーロッパ諸国であればその言い方に文句の一つも言うところであろうが、日本は気づかわせないためのその言い回しの裏の思いやりは十分感じとれるので、
「その敬老の精神は素晴らしいと思いますよ、プロイセン君。
親友のイギリスさんの伴侶として認めて差し上げてもよろしいくらいに」
と、にこやかに返す。
そんなわけで他国が来るまでの数十分、和やかな空気の中での歓談とあいなった。
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