会議後の懇親会。
仕事を離れてからの各国の話題の中心はやはりいきなり結婚しましたハガキを送りつけたプロイセンとイギリスである。
交流が元々深かった者達は、バイキング形式の中でプロイセンがひな鳥に餌を運ぶ親鳥のようにせっせと料理を皿に取り分けては運ぶ先であるイギリスを取り囲んで、少し距離があった者達は少し離れたところでその様子を見ながら情報が流れてくるのを待っている。
そんな親しい国の筆頭とも言える日本がイギリスのすぐ横でにこやかに言った。
その隣ではプロイセンにくれぐれもとイギリスの護衛を頼まれたドイツが立つ。
「何がだ?兄貴とイギリスが付き合っていた事か?
俺はああやっとなのか…と思ったのだが…」
「おや?ドイツさんにはおっしゃっていらしたのですか?
それともそうとしか思えないくらい実は会ってらしたのを見ていらした?」
少し驚いたようにわずかに目を見開く日本に、ドイツは
「正確には“見た”わけではないのだが…。
いつの頃だったか、兄が家を出ていた時期があってな。
確かあれは…1700年代中盤くらいだったか…。
期間は10年ほど。
途中で何度か帰宅して顔を見せた時には随分と機嫌が良くて、しかし戻って来た時には随分と落ち込んでいるようだった。
そう考えると…7年戦争あたりで付き合いが深くなり、その後10年一緒に暮らし、独立戦争で国として敵対する側について一時別れたのかと…」
「なるほど!そんなことが……」
「あ、でもな、イギリス…」
もうそれが事実のように広まって行くのをイギリスも止めない。
ドイツが少しかがんで視線を合わせてくるのに
「なんだ?」
と、自分も視線を合わせる。
それにドイツは少しホッとしたように微笑んだ。
「兄貴はお前と別れて家に帰って来た時、ひどく落ち込んでいたんだ。
俺は自分が物ごころついてからずっとあの人に育てられてきたが、あの人があんなに落ち込んで憔悴しているのを見たのは後にも先にもあの時だけだ。
だから…その……こうして和解してきちんと一緒になれた事に、あの人の世話になり続けた弟としてはホッとしている。
兄はもう国ではないから、お前以上に優先すべきものはなくなったし、これからはおそらく何を置いてもお前を守っていきたいと思っていると思う。
だから、受け入れてやってくれ。
よろしく頼む」
普段は硬い表情ばかりのドイツの和やかな顔。
料理の皿を持って戻って来たプロイセンはその弟の言葉に他からは見えないように少し複雑な表情を見せた。
確かに最初に恋人と暮らした時は、ドイツに事情も話さずに家を出て、同じく事情を話さずに戻ったので、イギリスと実は長く付き合っていたのだと言えば、その時一緒に暮らした相手だったのだろうと思われても不思議ではない。
(…まあ…うん…不思議ではないんだよな……)
と、心の中で思いつつ、何かもやもやする。
なにが…とよくよく考えてみれば、それが真実のように他人だけでなく、自分もだんだん思い込んで来てしまうことだ。
そう、それは違うと誰よりも知っているはずの自分でさえも、それが事実のように思えてきて、いつかまたイギリスが消えてしまうような気がして、必死になってくる自分がおかしいと思う。
色々が重なって……
「まあな、もう離れる理由はねえし?
別れる時は死ぬ時だぜ」
ケセセと冗談めかせながら割合と本気でそんな気持ちで、イギリスを座らせている椅子の前に少しかがみこむと、
「ほれ、あ~ん」
と、プロイセンは料理を刺したフォークをイギリスの小さな口に差し出した。
フェイク…だったはずのこの関係に何故こんな気持ちになってしまっているのだろうと思いながら…
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