とプロイセンが口にしたのは、帰宅してから。
テーブルの上に荷物を置いて、プロイセンは即、夕飯の支度に入り、イギリスは今すぐ使わない食材を冷蔵庫に入れていた時だ。
いつでも騒々しい男が今日ははしゃいで見せてはいるものの、少しばかり静かだったように思う。
いや、そうは見せないようにしていたし、実際他の人間なら気付かなかっただろうが、わずかな焦燥と不安感、それを抱えながら過ごしていた事に、イギリスは気づいていたし、その理由も知っていた。
だからこそ、気づかぬふりで一緒に過ごし、今もまた気づいていないふりで
「…なにがだ?」
と、首をかしげて見せたりしている。
イギリスのそんな気づかぬ振りの演技に、プロイセンもまた気づいているのかもしれないが、こちらもまたそれに気づかぬふりで苦笑した。
「今日…歩かせすぎた」
「…それがデートなんだろ?」
「………いや、ここまであちこち練り歩く必要はなかったし?
2人の時間を楽しむってより、見せびらかして歩いてたしな…」
──怖かったんだ……
と、エプロンをつけたまま歩み寄って来てぎゅっとイギリスをだきしめるプロイセン。
何が?とは聞くまでもないだろう。
「…ああ」
とだけ答える。
「…目撃者をたくさん作りたかった……」
「…ああ」
「一緒に過ごした記憶ごとなかったことになるのは……もう、いやだったんだ…」
「俺は国だし、それはねえだろ」
と、イギリスはそこで少し身体を離して自分のそれよりもわずかばかり高い位置にあるプロイセンの目を覗き込んだ。
「結婚しましたってハガキを世界中の国に送るわけなんだから、万が一俺が失踪したところで、どうやったってずっと記憶には残るだろうしな」
との言葉に、
「そうだな…」
とプロイセンの紅い瞳にわずかばかりの安堵の色が浮かんだ。
Before <<< >>> Next (5月10日0時公開)
0 件のコメント :
コメントを投稿