炎の城と氷の婚姻_第一章_4

SideアーサーⅡ


気温の高さは如何ともしがたいが、それでも吹いてくる風の心地よさに、アーサーの意識は浮上した。


さらさらのシーツの肌触り。

額には冷たく濡らした布が乗せられている。


ぼ~っとした意識のまま重い瞼を開ければ、目の前にあるのは健康的に日に焼けた彫りの深い端正な顔。


…あぁ…綺麗な目………


同系色でも、うすぼんやりとした自分のそれと違って、強い意志を伺わせるように光る濃いグリーンの瞳。

エメラルドのようなその瞳に見惚れていると、少し垂れ目がちな目が笑みの形を描く。


――ああ、気ぃついたか。良かった。気分はどない?しんどない?
太陽の国の王族特有のイントネーションで紡がれる言葉…。

その独特のアクセントと耳心地の良い声に、しかしアーサーは蒼褪めた。


…こ、この声はっ!!!
――せやから、会う必要なんてないやん?!
――なんで親分がわざわざ顔見せたらなあかんねんっ!
倒れる直前に聞いた声が脳内で再生される…。


あの時とは違って随分と優しい声音だが、間違いないっ!
太陽の国の常勝の将軍王、アントーニョ・ヘルナンデス・カリエド陛下の声だっ!!!
自分が嫁いでくるのに不満を持ってはいるものの、なるべく視界に入らないように、気に障るような事をしないようにすれば、とりあえず何不自由ない衣食住を確保しても良いと思っていてくれたのに……!!!
挨拶もせず勝手に倒れて、あまつさえ、こんなに近くに姿を晒しているなんて…


……どうしようっ!!!
もう脳内はパニックで、慌ててガバっと飛び起きたら、おそらく慣れない暑さの中で貧血でも起こしていたのだろう、目の前の景色がグニャリと揺れた。


「あかんっ!!寝ときっ!!!」

と、随分と力強い腕が倒れかかる身体を支えてくれるが、それでアーサーはまた焦る。


どうしよう、手間暇をかけさせている…。

自国の使用人達ですら、虚弱な自分に苛々していたのに、よりによって強国、太陽の国の王に手をかけさせているなんて、ありえないっ!!
身体が自由にならないならと、せめて言い訳をしようと口を開くが、焦り過ぎて今度はむせて咳が止まらなくなる。


どうしよう、どうしよう、どうしようっ!!!
焦りと咳と息苦しさで、目から涙があふれて来た。



「ちょ、医者っ!!医者呼んだってっ!!!」


ぎゅっと強くだきしめられてふわりとムスクの香りが漂う胸もとに押し付けられた頭上から焦ったような声が聞こえる。


本当にもう絶望的な気分になって涙がぽろぽろと止まらない。



――大丈夫…大丈夫やでっ。なんも心配せんでもええから。楽にしとき。


と、慰めるような王の声も耳に届かず、周りの空気が重く押し寄せてくるような圧迫感に、アーサーは空気がうまく取り込めず、苦しさに喘いだ。


だんだん周りの音が遠くなっていく。

耳がよく聞こえず、視界がかすむ。

そして……アーサーの意識は再び暗闇の中に落ちて行った。


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