そう泣きながら繰り返していると、ふわりと優しい手が髪をくすぐる。
…え?
と、その感触に驚いて目を開けると、目の前には大きく澄んだ淡いグリーンアイが心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。
「…ア……っ!…い、イギリス……」
寝ぼけた頭で目の前の相手の名前を紡ぐ。
一瞬彼女と間違えたのは、その大きなグリーンアイのせいだろうか。
プロイセンは瞬時に修正して正しい名を呼んだ。
どうやら夢を見ていたらしい。
そこはプロイセンの別宅の寝室で、“あの日”からはもうかなりの年月がたっている。
おそらく前日の夜にフェイクのではあるが結婚を申し込まれて、実に数百年ぶりに恋人と言う関係を始める事になって、それでそんな昔の夢を見たのだろう。
プロイセンが寝ぼけ眼で名を呼んだ相手は大きな目からぽろぽろ涙を零しながら、やっぱり心配そうな目をプロイセンに向けていた。
「…なんで…お前が泣いてんだよ。
なんかあったのか?」
わけがわからない。
確かに自分が泣いていたと思ったのも夢だったらしく自分の目からは一滴の涙すら出ていないのに、目の前の相手は泣いている。
だが、わけがわからなくとも、慰めてやらねばならない気持ちにはなって指先で目元の涙を拭ってやると、自分よりは年上のはずで外見年齢も自称23歳のくせに、こうしてパジャマや私服に身を包んでいると下手をすればミドルティーンに見えてしまう童顔な男は、その幼げな顔いっぱいに悲しさを浮かべて言ったのだ。
「…お前が…泣きたそうなのに泣かないから…代わりに泣いてやってる」
ああ…と、プロイセンの口から息が零れ出る。
そうだ、そうだった。
イギリスは自分に対する好意以外の他人の感情にはとても敏感だ。
プロイセンも敏感な方だが、プロイセンの場合は観察眼のたまもので、イギリスのソレはおそらく感覚的なものなのだと思う。
他人の感情を良くも悪くもキャッチしてしまう体質らしい。
ごめんな?…と謝りかけて、でもそれも違う気がしてプロイセンは考え込む。
ありがとうというのももっと違う気がするし…と、悩んだ末に、
「まだ夜も明けてねえし眠いかもしんねえけど…少し話をして良いか?」
と、その額に口づけを送って、そう言った。
結局それにイギリスが頷いた事で、ギルベルトは過去の唯一の女性関係についての話をして聞かせた。
飽くまで拒絶すれば1人天国への道も踏み外して死んでしまいそうで、どうしても突き離せなかったこと…
10年間後、忽然と消えてしまった恋人について…
そしてずっと続く悔恨のこと……
今まで誰にも言った事のなかったそれについて全て語った瞬間、少し胸のつかえが取れた気がした。
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