フェイク!verぷえ_第二章_1

──あなたの時間を10年下さい。

ずいぶんと昔のことである。

1人の少女に言われたそれは強固な意志を持って我が道を行くプロイセンですら、軽々しく──Nein──とは言えないような真摯な響きを持っていた。


まっすぐ見つめてくる瞳は淡いグリーン。
意志が強そうにも見えるのに、大きくまるいそれはどこか不安げな子どものようにも見えた。

結果…流された、そう、プロイセンは流されて、あの時、思わず頷いてしまったのである。

だって飽くまで拒絶をすれば死んでしまいそうだったから…


でもプロイセンは国だった。
だから当たり前だが1人のものにはなれない。

それまで言いよって来た他の女性達に対してもそう思って、その時は突き放す事ができたのに、彼女の求愛はあまりに必死でひたむきで…そして他の女性達と違って、プロイセンの心が決して自分の物にはならない事を感じて絶望しながら、──そう、もしかしたら断られて自殺するために言っているのかもしれないと思うくらいに諦観に満ちた目で──告げられているのがヒシヒシと伝わって来て断われなかった。

プロイセンが断固として断ったなら、他の女性達のように別の幸せを探しに行くでもなく、おそらく神の身許へ行く術さえ捨てて、それでも神の子として禁じられている自死を選んでしまうのではないかと思うくらいには思い詰めた目をしていたのである。

それは嫌だった。
どこか薄幸さを漂わせた彼女はどうしても幸せになるべきだとプロイセンは思ってしまったのだ。
現世の幸せを捨てるどころか死後の幸せすらも捨てて永遠の絶望に身を投げるような事は修道会を礎とするプロイセンとしてはさせられなかったのである。

こうして降参したプロイセンはそれから彼女が提示した10年、彼女が出会った時の年齢17歳から彼女が忽然と消えた27歳までの10年間を彼女にささげる事となった。


Before <<<    >>> Next (5月1日0時公開)


0 件のコメント :

コメントを投稿