温かい手。
そう、いつもアーサーの頭を撫でたり守ってくれたりする大きく温かい手がそこにある。
熱のせいだろう。
身体の節々が痛くて、喉の痛みもトンでもなくて声もロクに出ないが、アーサーが泣きながらその手に縋ると、ギルベルトはベッドに横たわるアーサーに覆いかぶさるようにしてだきしめてくれた。
──陛下…陛下…陛下……
泣きながら声のでない口をぱくぱくさせるアーサーにギルベルトは当然気づいてくれて、いつものように頭を撫でてくれる。
「…ごめんな?いきなり1人にして心細い思いさせて本当に悪かった。
もう大丈夫だからな?」
と、これもいつもの優しい言葉にホッとした。
何がどうなっているのかはわからないが、飛び出してしまってもう戻れないと思っていた王の手の中へ戻してもらえたらしい。
体調不良はすさまじいが、この安心感と引き換えならたいしたことではない。
くすん、くすんと泣いていると、宥めるように撫でてもらえる頭と、そこに降ってくる口づけに癒されて、アーサーは再度泣き寝入りをしてしまったらしい。
気づけばまた時間がたっているようだったが、しっかりと握り締めた王の服の裾は離される事はなく、ぽんぽんと優しく背を叩く手の感触に安心しすぎて、またうとうととしかけると、
「ストップ。寝ても良いけどな、少し何か食って薬を飲んでからな?」
と、そこで初めて覆いかぶさっていた熱が離れていった。
…あ……
と、離れた相手を追うように手を伸ばすと、王は少し動きを止め、ん?というように視線を向ける。
…寂しい……と、己の立場を考えるとそんな事を言えるはずもなく、おずおずと伸ばした手を降ろそうとすると、王の手が伸びてきてそれをしっかりにぎりしめてくれ、
「食事をもってくるように指示するだけだ。
すぐ戻るから。
そうだな、ゆっくり50数える終わるまでには戻る」
と、そう言ってそっとアーサーの手を放すとくしゃりとその手でアーサーの頭を撫でて、寝室を出ていった。
…50……
そうか…戻ってくれるんだ……
はっきりと提示されたそれに安心して、アーサーは喉が痛いので声は出さずに心の中で、い~ち、に~ぃ、さ~ん……と、ゆっくり数を数え始める。
……にじゅうご~……っ…………陛下っ!
そうして数える事25で、バタン!とドアが開いて約束通り王が戻って来た。
離れてもちゃんと戻って来てくれるのだ…
その事が嬉しくて嬉しくて、その嬉しさと安堵と色々な感情がごちゃまぜになって、結局涙となって溢れ出ると、王はびっくりしたようで、焦ったように走り寄って来て
「どうしたっ?!どっか痛いか?!」
と、アーサーをだきしめてくれる。
それにぎゅうっとだきしめ返すと、アーサーは痛む喉をおして、小さな小さな声しか出ないが、なんとか伝えた。
…ちが…嬉しい…戻って来てくれて……嬉しい………
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