フェイク!verぷえ_第一章_5

「じゃ、夜は短いんで俺達は帰るぞ」
と、いかにもこのあとのことを匂わせつつ、イギリスはプロイセンを出口へと誘導する。

もちろんプロイセンとて退場したいのは山々なので、これ以上引き留められる前にと、ごった返した人ごみの中をイギリスをエスコートしつつするりするりとすり抜けて行った。



途中、後方でフランスが何か言いつつ引き留めようとするのを、スペインが自分達のことなど放っておいてナンパに戻ろうと止めつつ促しているのに、心の中で(スペイン、グッジョブ!)とエールを送って、バーを出た瞬間2人で大通りに向けて全速力で走りだす。


こうして辿りついた大通りで拾ったタクシーに乗り込むと、プロイセンはようやくホッと息を吐きだした。

「ダンケ、助かったぜ。ホテルまで送るな?」
と笑みを浮かべ、主催国で手配しているから知っている、イギリスが宿泊中のホテルの名をタクシーの運転手に告げると、イギリスは何か考え込むように片手を口にあてて黙り込む。

「…なんだ?」
と、その様子にプロイセンが聞くと、
「…話…したい。
ホテルでも他の場所でも良いんだが…邪魔が入らない場所で…」
と、さきほどまでの不敵な顔が一転、少し心細げな子どものような顔になった。

このギャップに他者はイギリスは裏表がありすぎて油断できないとよく言うのだが、プロイセン的にはどちらも本当のイギリスだと思う。

むしろ国策を離れたプライベートでは、イギリスは対峙している相手の鏡だ。

こちらが誠意を見せれば心を開いて誠実に対応してくれるし、不実な事をしたり傷つけるような事をすれば、警戒心でハリネズミのようにとげとげしくなったりと、非常に分かりやすい。

だからプロイセン自身は元々プライベートで策を弄するタイプではないが、特にイギリスには誠意を持って接するようにしていた。

そうすればイギリスほど信頼できる相手はいないと思っているし、自分も信頼されていると自負している。

「ん~、じゃあいったんホテルに戻って荷物まとめてチェックアウトだな。
俺様の別宅にご招待だ」

言われてプロイセンは少し考えて、結局そう言った。



ホテルの部屋と言うのは基本的には借主以外が長時間滞在するものではない。

もちろんプロイセンは国体であるドイツの実兄で政府関係者で手配主でもあるので、ホテルの側は普通に融通を利かせてはくれるが、これはおそらくプライベートだ。

だから特権を振りかざして原則をやぶりたくはない。

フリーダムに見えても実は気真面目なプロイセンは極々当たり前に規則を順守することにする。


こうしてホテルでいったん2人してタクシーを降り、プロイセンはラウンジでイギリスを待つ。

そして荷物をまとめたイギリスがホテルをチェックアウトすると、2人でまたタクシーでホテルから1時間ほどの私邸へと向かった。


こうして辿りついた別邸は、普段はドイツすら同行しない、完全にプロイセンだけのプライベートスペースだ。
本当に込み入った話をするには良い。

そして今回のイギリスの話はかなり込み入ったプライベートな話と察したので連れて来たわけなのだが……そこで出て来た話は、割合と勘の良いプロイセンですら想定の範囲を遥かに超えた話だった。

そう、だっていくら良好な関係を保っている同僚と言えど思わないだろう?

いきなり

──突然なんだが、俺と結婚しないか?
なんて言葉があのイギリスから出てくるなんて事は……




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