生贄の祈りver.普英_4_9

細い…小さい…脆い……

…………
…………
…………

怖い…怖くて、怖くて………
壊しそうなのが怖くて仕方がない……


岸にたどり着いた時に止まっていた呼吸はなんとか再開した。

弱々しい呼吸と鼓動。
ちょっとした刺激で壊れてしまいそうな脆さ……

守りたいのだ。
守ろうと思うのに、まるで自分の武骨な手で触れれば、割れて壊れてさらさらと砂のように空気に舞って消えてしまいそうな気がしてくる。


──エリザ…どうしよう……

途方に暮れたままのギルベルトの目の前から、女のくせに実に軽々とアーサーをだき上げるエリザ。

「…あんた何してんのよっ!行くわよっ!!」
と、そのまま歩きかけて一歩、そこで立ち止まってクルリと振り返ってそのまま固まっているギルベルトにキリキリとそう声をかけると、エリザは今度こそ立ち止まらずにまっすぐ城に向かって歩き始めた。

強い女だ。
本当に強い。

アーサーがこのくらいの強さと頑丈さを兼ね備えていれば、遠慮なくぎゅうぎゅうとだきしめて抱え込んで守るのに……

ああ、もっともエリザくらいになると、守る必要もないのか……

(…そもそも、守る気になんねえよな……)
と、それは心の中で思っただけなのに、何故かどこからか飛んでくるフライパン。

反射的に避けて見回すも、近くに人影なし。

「置いて行くわよっ!!!」
と、本当に遠くから聞こえる声。


不思議な事もあるもんだと思いつつ、とにかくアーサーを早く温かい場所で医師にみせてやらねばならない。

そう思いなおして、ギルベルトも慌ててエリザのあとを追った。







ギルベルト自身も常に前線に立って来たため多少の医術の知識はあるものの、その知識はもっぱら怪我専門だ。
病気関係は専門家に任せて方がいい…

なけなしの理性でそう判断して、場を医師に譲って自分は邪魔にならないように少し離れる。

全身から血が引いていくような感覚。
どんな過酷な戦場でも顔色一つ変えずにその身を置いて対処してきた冷静さと精神力には定評のあるギルベルトだったが、今、血が止まりそうな強さで握りこんだ拳が震えるのを止められないほど、怖かった。

唇を噛みしめ、視線は穴が開きそうな勢いでアーサーが横たわるベッドに。


「…陛下………」

そんなギルベルトの耳に飛び込んでくる遠慮がちな声。

余裕がなさそうなギルベルトの様子を見て慌てて止めるエリザに制されて俯くルートに気づいて、ギルベルトは息を小さく吐き出した。


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