生贄の祈りver.普英_4_10

「おう、なんだ、ルッツ」
と、そちらに声をかけると少し気遣わしげなエリザとホッとした表情のルート。

「…あの……今回は……」
「聞こえてた。追い詰めるなというお前の判断は正しかった。
兵にもう少しお前の指示にも耳を傾けるように周知しておかねえとな」


ポンと頭を撫でるギルベルトに少し肩の力を抜きながらも、ルートはさらに少し不安げな困ったような顔で

「…すまない…。
でも俺もおそらく追い詰めてしまったんだと思う。
そんな気はなかったのだが、それまでわりあいと友好的な関係を築けていたと思ったのだが、皇太子だと言った途端に逃げだされてしまったんだ」
と、うなだれる。

「あー…それは…悪い俺様のミスだ。
なんつーか…驚きやすいんだ、アルトは。
俺様も最初国王だって分かった途端気絶されたしな。
意識戻ったらちゃんと俺の家族だって紹介すっから…」

パシンと額を片手で叩きながらそう言うと、ギルベルトは今度はルートの顔を覗き込み、

「その時は仲良くしてやってくれ。
できるよな?」
と微笑みかける。

「もちろんだっ!陛下っ!」
「お~し、それでこそ俺様のルッツだ。
じゃ、とりあえず悪いけどアルトの部屋をな、俺様達の部屋のある東の宮に移すのを急ぐように侍従長に命じてきてくれるか?」
「わかったっ!」

与えられた役割に今度こそ心から安堵したように部屋を後にするルートを見送って、ドアが閉まったのを確認すると、ギルベルトは貼りつけていた笑みを消してため息をついた。

「…あんた、見なおしたわ。
今はルートの事まで気遣う余裕はないと思ったけど……」
と、そこでさりげなく横に並ぶエリザ。

ギルベルトの隣で壁にもたれて立つ。
それに対してギルベルトはこちらには笑みも浮かべず厳しい顔のまま

「…俺様はアルトを守ってやるって決めてはいるが、ルッツの保護者でもある。
どちらかを優先しねえと出来ない事ならとにかく、自分のメンタルの弱さでルッツを突き離すなんて事できるわけねえだろ」

と、くしゃりと前髪を掴んだ。

それに対してエリザはクスリと笑みを零した。

「で、あたしにはその仏頂面なわけね」
「てめえは鋼鉄製の神経してっから別にいいだろ」
「殴るわよっ!……フライパンで」
「勘弁しろよ、こんなに弱ってるか弱い俺様に対して…」

そんな軽口の応酬の後、エリザはまあいいわ、と、肩をすくめた。

「あんたは痩せ我慢が男の美学な人間だものね。
あたしはせいぜいその仮面を粉砕して我慢の下の顔を引きずりだして眺める事にするから。
あたしの前でだけは無駄だから痩せ我慢はやめときなさいね」

ああ…本当にこの女は…敵わねえ。
男前すぎじゃね?

泣きたい気分なのに苦い笑みがこぼれおちてしまう。

守ると言うより背中を預け合いたい存在、それがこの幼馴染なのだと思いつつ、ギルベルトはその事に少しホッとした。



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