いつもいつも拒絶されるのが怖くて伸ばせなかった手…
いまなら…そう思って伸ばすと、それをまるですごく大切な物のように手に取ってくれる。
伸ばした手を両手でしっかりと…しかし恭しく包まれて、指先に静かに口づけを落とされた。
そして…さきほどから何度も繰り返されていた言葉をまた言われる
──アルトが…大切だ…
それはまるで神聖な誓いの言葉のように紡がれた。
一緒に年を重ねていつか2人で爺になって、アルトが天寿を全うするのを看取るから…
それまでは俺様は側を離れねえし死なねえ。
1人にしたりしねえから…側にいてくれねえか?」
そう言ってから、少し眉尻をさげて
「俺様、悪友2人と違ってこういうの下手だからさ、ドラマみてえなロマンティックな言葉とかすぐ思いつかねえし、贈ってやれねえけど…」
と、困ったようにつけ足した。
まったくありえない話である。
アーサーの人生の中でおそらくこれはギルベルトの相手役に選ばれた時と並んでドラマティックな出来事だ。
これがロマンティックでないとしたら、何をロマンティックだと言えば良いのだろう…
アーサーなんて、もうあまりに現実感がなさすぎて、夢なんじゃないかと思ってさえいるのに…。
そう…ギルベルト以外からは、こんな風に大事に思っているなんて言われた事はアーサーの長い人生の中で一度もなくて、自分がそんな風に言ってもらえるような人間じゃない事はアーサー自身が一番よくわかっているのだ。
だからとても信じられなかった。
…とても…とても嬉しいのだけれど……
もしかして…同情とかなのだろうか?
もしくはアーサーがこうやって倒れた事に対する責任を感じているとか?
アーサー的にはそのどちらだとしても構わないし嬉しい。
ギルベルトに負担をかけて翻意ではない事を言わせてさせてしまっても一緒にいたいと思ってしまっている自分の性格の浅ましさを嫌悪したりもするのだけれど…
だからむしろ問題はギルベルトが実は自分がアーサーに対して責任を感じたりする必要は欠片もないのだと気づいてしまった時だ。
たぶん死んでしまう…悲しさと寂しさで今度こそ…と思う。
それでも、差し出されたこの手を取らないという選択肢はアーサーにはないのだ。
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