随分と長い間、下がらなかった熱。
胸の痛みも息苦しさも完全に消えたわけではなかったのだけれど、家に帰りたいのだ…と泣きながら訴えたら、ギルベルトは自宅療養に切り替えてくれた。
そして、ちょうど撮影が終わったばかりでオフを取れたので、ずっとそばに付いていてくれる。
もちろん当たり前だがそんな事はなくて、ギルベルトが運転する車で戻ったマンションでは、アーサーが出て行く前と全く変わったところのない部屋のベッドの上では、一足先に帰宅したクマのぬいぐるみ、ギー君が、まるで何事もなかったかのようにアーサーを出迎えてくれた。
いや、何も変わりなく…ではないか……
マンションに戻ったアーサーはまだ安静にするように言われていて、部屋に戻ってまずパジャマに着替えたのだが、着替え終わって枕元に鎮座しているギー君を抱き上げて、さあベッドに入ろうかとブランケットに手を伸ばすと、いきなりギルに有無を言わさず抱きあげられた。
「え??」
と驚きつつ硬直していると、そのままアーサーの寝室を出てギルの寝室へ。
「アルトはこれからは寝る時もこっちな。
寝室別だと万が一容態が変わっても気づけねえから」
「え?ええっ?!!!ちょっと待った…!!」
「あ?」
「だって…え??ギルは?どこに寝るんだ?」
まさかまさか?と思っているとやっぱりまさかで、ギルベルトはあっさりと言い放つ。
「俺様のベッドはセミダブルだし、アルト細っこいから一緒に寝れんだろ。
アルトが嫌なら俺様の寝室のソファはソファベッドだから、俺様そっちに寝るけど?」
うあああ~~~~!!!
動揺した。
いや…恋人というからには別に同衾しても全くおかしくはないのだろうが、朝目覚めてあんなに綺麗な顔が間近にあったら心臓が止まってしまいそうだ…。
かといって…大スターをソファで寝かせるなんてありえない。
しっかりと横抱きにされたままちらりと顔をあげると、少し不思議そうに首をかしげつつ、綺麗な紅い目が見下ろして来る。
…だめだ…無理…心臓が止まる……
かといって一緒に寝るのが無理とか言うのも失礼すぎる気がするし……
──俺…寝相良くないんだけど……
と、これがアーサーの精いっぱいだったのだが、そんなささやかな抵抗は
「おう、じゃ、アルトが壁側な?
俺様は寝相悪くねえし、アルトがベッドから落ちたら大変だから」
と、当たり前に封じられた。
そしてその後、
「…蹴飛ばしちまうかも?」
と、それでも本当に最後の無駄な悪あがきが
「アルトの蹴りくらいなら余裕だぜ?」
と、にこやかにかわされたことで、アーサーはとうとうこれから毎日この売れっ子俳優と一緒のベッドで寝る事になったのであった。
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