やって、聖歌やでっ?!
天使ちゃんのための歌やんなっ?!!」
と、打ち合わせがてらの昼食で主張するアントーニョに、さすがにこれまでは流されてきたギルベルトが待ったをかける。
「いや、だっていきなり歌はまずいだろ。なんのレッスンもしてねえ素人だぞ?」
と、担当にちらりと視線を送ればスタッフが困ったようにフランに視線を向けた。
視線を向けられてフランは
「もしかして、お兄さんの意見なんて求められてる?」
と、芝居がかった様子で自分を指差し、スタッフがコクコクと黙って頷くと、肩をすくめた。
「坊っちゃん絶対音感あるから平気。
この子の実母、リズ・カークランドよ?」
「り…リズ?誰なん?」
と、首をかしげるアントーニョと対照的に、実は博識なギルベルトはすぐ思い当たったらしい。
バン!とテーブルを叩くように立ち上がって、フランシスの方に身を乗り出した。
「ちょ、あの、リズか?!
若干二十歳でショパン国際ピアノコンクールに最年少入賞したあのリズのかっ?!!」
「そそ、そのリズちゃんよ~。
入賞1年後に前妻との間に3人も息子がいる男と電撃結婚。
で、一人息子生まれて1年で旦那が飛行機事故死。
その後遺産その他の争いを嫌って全部放棄して子ども連れて旧姓のカークランドに戻って音楽活動再開。
で、その母親に付いて音楽教育受けながら各国回って、中学を期に少し落ち着いた環境をってことで学生時代からの親友フランソワーズ・ボヌフォワ、つまりうちの母親ね、に預けられた一人息子が坊っちゃんてわけだ」
「すっげぇえ~~!!マジすげえっ!!!」
大興奮のギルベルトに、自分だけ蚊帳の外な事に機嫌が下降気味のアントーニョ。
あまり見たことのない不機嫌なアントーニョにアーサーは少し動揺して、どうしようかと、あたりを見回す。
そして視線が止まった先、アントーニョの手作りの自分のランチボックスの中に鎮座するプチトマト。
アントーニョが好きなトマト……
迷わずそれを摘んでチラリとアントーニョの顔を見る。
ごくりとつばを飲み込んで…決意っ!
「トーニョ…」
「おん?」
呼びかけてアントーニョがこちらを振り向いた瞬間、それを口に加えて顔を近づけ…笑顔の形を作ったアントーニョの開いた唇に押し付け、舌で押し出す。
カチ~ン…とその瞬間固まる空気。
「え…と…小鳥の親子…ごっこ?」
そこで空気を読むことなく照れたように少し困ったような笑みを浮かべてアーサーがそう言った瞬間……
「「お前ら、何しちゃってん(だよ)のぉぉ~~~!!!!」」
悲鳴をあげる悪友二人と、顔を押さえて悶えるアントーニョ。
アーサー一人が、え?え?とますます動揺してきょろきょろと周りを見回した。
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