自分みたいなつまらないなんの価値もない人間が、みんなにとって必要な大スターであるギルベルトを煩わせるなんて事はあって良いわけがない…
そう思ってアーサーは口をつぐんだ。
そして口から出られなくなった想いは目から透明な雫となって零れ落ちていく。
それに気づかれないようにアーサーが少し俯いて、それでも頭を撫で続けていると、今度は不意に頭上から笑い声が聞こえた。
正直展開についていけない。
さきほどまで泣いていたのに今度はなんなんだ?
どこか様子がおかしいギルベルトに、自分の悲しさ、切なさなんてどうでも良くなってふっとんでいく。
そして
「…えっと…なんか…大丈夫か?」
泣きながら笑う相手に思わずそう聞くと、
「ああ、大丈夫。アルトがこうして生きて目を覚ましてくれた瞬間に大丈夫になった」
と、ギルベルトは泣き笑いをしながら言った。
それからふと笑みが消える。
──アルトが死んじまったら…俺様も死のうと思ってた…
そう、どこか思い詰めた顔で言って、ギルベルトの端正な顔がアーサーの顔を覗き込んできた。
本当に…本当に意味がよくわからない。
だって…何故ギルベルトの生死に自分が関わるんだ?
単に映画の役作りのための疑似恋人にすぎないのに?
そう確かに思う…なのに心の奥底がぽわぽわと温かくなった。
その温かさの原因は間違いなく、ギルがまるで自分を本当の恋人のように大事に思っているなんていう、アーサーにとって都合のよすぎる曲解した考えで…でも、自分からそんな幸せな誤解を解きたくなくて、アーサーはただギルベルトを見あげて次の言葉を待つ。
するとギルベルトは綺麗な形の眉を少し寄せて、アーサーの頬をそっとその大きな手で包み込んだ。
「…なんで?」
とかすれた声で聞かれて、アーサーはきょとんと小首をかしげた。
なにが何故なのかわからない…そんなアーサーの反応に、ギルベルトは悲しそうな顔になる。
それにアーサーまで悲しい気分になった。
だって今までずっとギルベルトを困らせたいと思った事もなければ、そんな風に悲しい顔をさせたいと思った事もない。
ギルベルトを困らせている、悲しませている…そう思うと、もう申し訳なさに居たたまれなくなってコロン、コロンと目から涙が零れ落ちると、ギルベルトは今度は慌てたように手のひらでアーサーの涙を拭って言った。
「ご、ごめんな?泣かせて悪い。
俺様がきっと何か気に障る事しちまったんだな」
と、自分の方も泣きそうな顔で言うギルベルトに、アーサーはふるふると首を横に振る。
違う…違うんだ………い、今泣けて来たのは…申し訳なさ過ぎて…
と、言うアーサーにギルベルトは目を丸くした。
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