その後とりあえず切っただけのフランスパン、ちぎっただけのサラダ、そして野菜を切って沸かした湯で茹でてルーを放り込んだシチューという夕食をいただく。
「大丈夫、大丈夫、ジャガイモはちゃんと煮えてるから、
人参は生でも食べれるし大丈夫やで~。」
と笑いながらその頭を撫でてやると、
「…すみません……もう無理に食べなくても……」
と縮こまる。
可哀想だが可愛い。
もうこの天使自体が食事を美味しくする一番のエッセンスなんじゃないだろうか。
正直…アントーニョ自身は2年間も料理番組をやってるだけに料理も手慣れたもので、そこら辺の奥様には負けないくらいの料理の腕ではあるが、自分が作った料理よりも、この天使ちゃんが失敗しながら一生懸命作ったという、まるで新婚家庭の幼妻のようなシチュエーションで出来上がった料理の方が美味しく感じる。
料理は愛情とはよくいったものだ。
あれは作る側が…というのもあるのかもしれないが、実は食べる側の問題でもあるのかもしれない。
…というか…最初から上手なより、自分のために一生懸命練習して上手になっていくというのはなかなかそそられるじゃないか。
「料理得意やなくても大丈夫やで。
来週からは天使ちゃんも親分と一緒に悪友キッチンに出る事が決まっとるからな。
嫌でも慣れるさかい、気にせんどき。
それまでは朝は時間ないから親分がちゃちゃっとやるけど、夜は親分と一緒に練習しよか」
にこぉっといい笑顔を浮かべるアントーニョ。
ああ、なんて優しい…と、思い浮かべていた温かい人物像そのままのアントーニョに感動するアーサー。
(明日からは皆と接触せんわけにはいかんけど、料理の練習言うたら他と一緒に食事しよ言われても断って帰れるやんな。
天使ちゃんは親分と二人きりでキッチン立って二人きりで食事しとればええねん)
憧れのアイドルが独占欲そのままにそんな事を考えているなどということは、当然知らない。
それでも明日からはアーサーのアイドル生活が本格的に始まるのだった。
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