「えっと…ギルちゃん自身の体調は大丈夫?
ダメなようならちゃんと治療受けてね。
…坊ちゃん、ずっとギルちゃんのこと呼んでたから…目を覚ました時にギルちゃんが倒れてたら下手したらショック死しちゃう」
少し苦笑交じりに隣に立ったフランシスが言う。
「ああ…平気。大丈夫だ…。
アルトが生きてる限り、俺様はこいつを守らねえとだから、絶対に死なねえし倒れねえ」
との言葉通り、さきほどまでの息苦しさは不思議ときえていた。
…お前が出て行った理由が俺様の想像の通りなら…俺様はちゃんと訂正しなきゃなんねえし、誓ってやるから…ずっとお前が年を取って天寿をまっとうするまでお前を守ってやるからって…
そうだな、その時まではロクなモン食ってなかったせいで貧弱で強くならなかった身体が少しでも健康になるように、辛い事だらけだったせいか悲観的ですぐ泣くお前がいつも健やかで笑顔で過ごせるように、ずっとおはようからお休みまできっちり守ってフォローして…年を取って寿命が尽きたらお前をちゃんと看取ってから俺様も死ぬ。
絶対にお前を1人にしたりしねえ。
俺様は俳優でアイドルで…弟には兄貴で父親にとっては息子だけれど…それよりなにより一番の身分はアルトの心身の警備員だ。
アルトの身体は守って心は幸せになるように…
一生それを第一に考えて生きるから…それをわかってねえなら、何度でもわかるまで伝え続けるから…だから、早く戻って来い。
頼むから…頼むから……
さきほど取れないままシーツに沈んだ自分よりも一回り小さい手を両手で包むように取ると、それを口元に持ってきて、口づけた。
するとピクリとその手が動く。
ハッとあげた視線の先にはふるり…と小さく揺れたあと、ゆっくりとあがっていく光色のまつ毛と開いていく瞼
その奥から綺麗な新緑色の瞳が現れたところで、全身…そして心が震えた。
「…アルト……アルト…アルト、アルト、アルト……」
その他の言葉なんてもう忘れてしまったかのように、ギルベルトが繰り返し呼ぶと、アーサーはきょとんと童子のような邪気のない目で、不思議そうにギルベルトを見あげる。
「…え…?……ぎ……」
何か言おうとするか細い声は、その半身を引き寄せて号泣するギルベルトの泣き声で消されて行った。
子どものように泣いて泣いて…普段の自分ならなんてみっともないと思ったのかもしれないが、そんな事ももうどうでも良い。
アーサーが…最愛の恋人が生きている。
まだ…失くしてなかった。
それだけが嬉しくて泣き続けていると小さな手がおそるおそるといった様子でいつもとは逆にギルベルトの頭を撫でてくる。
それがなんだかくすぐったくて幸せで、今度は笑いがこみ上げて来て、クスクス笑いだすと、
「…えっと…なんか…大丈夫か?」
と、どうやら頭の心配をされたようだ。
だがそれにも腹の一つもたつことなく、
「ああ、大丈夫。アルトがこうして生きて目を覚ましてくれた瞬間に大丈夫になった」
と、ギルベルトは泣き笑いをしながら言った。
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