――ギルちゃん??
苦しくて喉に手をやると、遠くで慌てたような声がした。
いや、遠くにと思ったのは間違いだったか…
ギルベルトが遠くに感じていただけで、実際はすぐ隣にいたらしく、労わるように差し伸べられる手…
それをギルベルトは跳ねのけた。
死ぬんだっ!死なせろっ!!
ガキの癇癪のようだ…と思うものの止まらない。
なんで、なんで、なんでっ?!!!
大切にしてたっ!
健康にだって気をつけていた!
毎日毎日、それまでロクな食事をしていなくて栄養状態が良くないアーサーが少しでも丈夫になるように、どんなに忙しくても可能な限りきちんと素材から吟味して栄養のある食事を作って摂らせていたし、夏の暑い日には日射病に気をつけて、冬の寒い日には風邪をひかせないように、気を配っていた。
大切にしてたっ!大切だったんだっ!!!
叫んだつもりの言葉は呼吸ができなくて苦しい息の下、かすれた呟きにしかならない。
呼吸ができないなんて経験は初めてで、でもそれにホッとした。
動物は呼吸ができなければ死ぬ。
このまま死ねば恋人とずっと寄りそってやれる…守ってやれるんだ……
明らかに様子のおかしいギルベルトに、さすがにまずいと思ったのであろう。
フランシスを含めた数人が駆け寄ってくるが、ギルベルトは最後の気力を振り絞って助けようとする手を必死に拒絶した。
涙が止まらないのは苦しさか安堵からか…
どちらにしろ酸欠で薄れつつある意識…
だが、その時だった。
寝台の方についていたスタッフの歓声に視線をむければ、生体情報モニタが生存を示している…
「アルトっ!!」
伸びてくる全ての手を振り払って駆けよれば、小さく弱々しいものではあるが、確かに呼吸をする恋人。
…ああ………
そこで完全に力が抜けて、ベッドのわきでギルベルトはへなへなと膝をついた。
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