あ…焦げた……
アーサーは焦げたトーストをこっそりゴミ箱へ。
代わりに焼いてないフランスパンを切って籠に盛る。
サラダは…レタスをちぎってプチトマトをちらせるくらいなら、さすがに失敗はない。
まあ…ゆでたまごを添えるつもりが、たまごをお湯がなくなるまでゆでて爆発させて鍋を1つダメにした挙句に添えられなかったのは、この際無かったことにしよう。
ドレッシングは市販のを買ってきたし、シチューは奇跡的に焦げてない。
なんとか食事の形にはなっている気がする。
事の起こりは幼なじみでアイドルのフランシス・ボヌフォワのちょっとしたお茶目で始まった。
アントーニョの隠れファンだったアーサーはアントーニョの私物をくれるというフランシスの甘言に乗って女装してアントーニョの相手役オーディションに参加したのだが、そこで何を間違ったかアントーニョに気に入られて、相手役に選ばれてしまったのだ。
そこからは怒涛の勢いで流れていった。
海外にいる母の親友で日本でのアーサーの親代わりでもある、フランシスの母で有名女優のフランソワーズ・ボヌフォワに付き添われて事務所と契約。
アイドルとして顔が売れてきたら、今住んでいるマンションで一人暮らしも色々不用心だろうということで、事務所が一棟単位で借り上げているマンションの一室に引っ越す事に。
…と思ったら、そこでアントーニョから入る待ったの声。
「天使ちゃん、この業界のことにも慣れてへんやろし、知らんこと多くて色々不便やろから親分とこで一緒に暮らして、おいおい教えてったるわ。」
まるで太陽のような暖かい笑みを浮かべてそう言われて、アーサーは言葉をなくす。
さすが大スター。優しい。
自分が思っていた通りのその思いやりのある親分肌な性格に、ただただ感動するばかりだ。
とはいっても、そんな大スターに自分ごときの事で手間をかけてはさすがに申し訳ない。
「いえ、アントーニョさんにそんな事させては申し訳ないです。
俺、わからないことがあれば調べるなり、色々な人に聞いたりしてご迷惑おかけしないように頑張りますからっ」
と、辞退する。
しかしよもや、
(他の人?他の人なんかに近づいて変なちょっかいかけられたらどないすんねん。天使ちゃんは起きた瞬間から寝る瞬間までずっと親分だけ見てなあかんやん)
…などと憧れのアイドルがその明るい笑顔の裏で思っているなどという事は当然アーサーは知らない。
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