「遠慮せんといてや。親分が選んだ親分の相手役なんやから。
天使ちゃんには最高のコンディションでいてもろて、最高の作品に仕上げたいし」
と、にこやかな中にもどこか真剣な光のある眼差しでそう言われて、アーサーはひたすら感動する。
間違ってもその真剣さは相手が
(親分おらへんところで彼女とかに会うたりせんようにせんと…)
などと思っているところから来ているなどとは思ってもみない。
「そうですね。今後売り出す事も考えて、トーニョと常にセットで行動したほうが顔が売れていいかもしれません」
(さすがに…こんなまだ幼い後輩連れて女遊びはしないだろうし…)
と、それが散々アントーニョの女性関係で管理不行き届きと社長に怒られ続けたマネージャーの心の平穏のための言葉だとは、これもアーサは当然知らない。
芸能界というと色々厳しいと聞くが、こんなに善意に満ち溢れているのか…と、感動するばかりだ。
言葉の裏を疑って見るなんて知恵は若干15歳の少年にあろうはずもなかった。
こうして恐縮しながらも3DKのアントーニョの部屋の一室にアーサーの私物が運び込まれた。
この時もアントーニョが実に手際よく荷解きを手伝ってくれた。
さすがアイドル、優しいし何でも出来るんだな。
大スターであるところのアントーニョなのに、普通に気さくに自分の衣装部屋にアーサーの服を置く一角を作ってくれただけでなく、片付ける事までやってくれてしまう。
服だけでなく、私物の文具、本、その他諸々、細々と全て手伝ってくれるアントーニョの優しさに、長く隠れファンだったアーサーは大感激だ。
それがよもや、彼女の影を探すチェックだったなどとは、当たり前に思わない。
しかし一つだけ…大問題が……。
雑誌の切り抜きやポスターなどは家においてきたのだが、大切に大切に抱え込んでいたサイン入りの写真集、あれだけはどうしても勿体無くて持ってきてしまったのだ。
これは…さすがに本人に見られたら恥ずかしい。
しかしポケットなどに隠せるような大きさでもないため、焦る。
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