「ん?これ……」
整理しているうちに当然見つかる写真集。
「あ~、この前フランに頼まれたやつな。
なんや、彼女にあげたいんやって?」
ああ、そういう話になってたのか…と、アントーニョの言葉にアーサーは大きくため息をつく。
と、しかし次に笑顔だったアントーニョの顔から少し笑みが消えた事にアーサーは不安を覚えてやや身を硬くした。
「あ~、そんなに構えんといて」
と、それに気づいたアントーニョが緊張をほぐすように笑ってポンポンとアーサーの肩を叩く。
いちいち優しい。本当に自分が憧れていたままのアントーニョだ。
憧れていたあのエメラルドの瞳が自分に笑いかけているなんて、幸せな夢の中にいるんじゃないかと思う。
「あのな、ほんま可哀想なんやけどな、俺らアイドルって夢売る職業やさかいな、彼女とか作られへんねん」
笑みが少し困ったようなものに変わった。
「せやから…親分のファンでいてくれてる子ぉで、私物欲しいんやってフランに聞いたし、なんかその子の満足してくれそうな私物あったら何でもやるさかいな、それと写真集で申し訳ないんやけどこれからは会わんという事にしたって?」
アントーニョの言葉にアーサーは呆然とした。
だって…だって、彼女とかは誤解だけど、もし本当だとしてもアーサーの問題だ。
なのにアントーニョはアーサーのためになんでも私物をくれるという。
優しい…夢を売る職業というけれど、こんな優しい人自体がまるでお伽話に登場する夢の王子様のようだ。
感動のあまり固まっているアーサーをどう思ったのか、アントーニョはグイッとアーサーを抱き寄せると、ソッと頭をなでた。
「堪忍な。これが仕事やから。
その代わり天使ちゃんが寂しゅうないように、親分がずっと…おはようからおやすみまで側にいたるからな」
なにこれ…俺明日死ぬんじゃないか?
もう架空の彼女なんてどうでもいい。
…っていうか、リアルで本当にいたとしてもどうでも良くなってる気がする。
写真集さえ買うことが出来ずに涙を飲んでいた数日前までの自分はどこにいった?
まるでドラマのワンシーンみたいだ。
アントーニョに…あの大スターに抱きしめられて、あまつさえ、ずっと側にいてやるなんて言われてるんだが……。
どうしよう…俺萌え死ぬかも……。
もう感動のあまりダ~ッと涙があふれると、温かい手に両頬を包まれ、なんと目元にチュッチュッとキスが降ってくる。
「事務所の方針やねん、可哀想になぁ。堪忍な。
親分がなんでもしたるから泣かんといて」
と優しく優しく囁かれたあたりで、キャパオーバーでパンクした。
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