とにかくそのまま泣いて泣いて、泣き疲れて、あろうことかアントーニョの服の裾をしっかり握ったまま眠ってしまったらしい。
荷物整理していたのは昼過ぎだったのが気づけば夕方。
大きな…大の男でも3人くらいは眠れそうなキングサイズのベッドで、アントーニョにしっかり抱きしめられながらアーサーは目を覚ました。
ゆっくり瞼が開かれ少し眠そうに、柔らかく笑いかけられた。
「おはようさん、よお眠れた?」
気絶しなかった自分を褒めてやりたい。
悲鳴もあげなかった自分も褒めてやりたい。
まあ実際には自分を褒めるどころではなく、平謝ったわけだが…。
幸いにしてアントーニョは仕事が入っていない午後は午睡を取る習慣があるらしく、どうせ一人でも寝とったから、と笑われた。
終始そんな感じでアントーニョは嘘みたいに優しい。
慣れない生活に戸惑い、彼女とは別れなければならない(実際は誤解だが)アーサーを気の毒に思ってくれているのだろう。
夜も急だったため自分のベッドもまだないしと、愛用のティディとソファで寝ようとしたアーサーに、
「何言うてるん。こっちおいで。
言うたやろ。天使ちゃんが寂しくないように、ずっと親分が側におるって。
寝る時も一緒やで。これからはずっとこのベッドで一緒に寝ような。
ティディちゃんは枕元にでも置いておき。
抱きつくなら親分に抱きつこうな~」
と、ポンポンとベッドを叩く。
で、でも……と、さすがにぎゅっとティディを抱きしめたまま硬直していると、小さくため息をついて笑いながら、アントーニョはベッドから降りてきて、アーサーがいるソファまでくると、ティディごとひょいっとアーサーを姫抱きに抱き上げてベッドに下ろした。
そして…呆然としているアーサーの手からティディを取り上げると、枕元に。
そのままアントーニョは寝転がって片腕を広げると、もう片方の手でポンポンとそれを叩く。
「ほら、おいで。寒いやろ」
ディスプレイの向こうにあったはずの眩いばかりの笑顔がすぐそこにある。
いえ、熱いです。もう顔がすごく熱いです……
何このアイドル全開な笑顔。何このアイドル全開な人懐っこさ。
やめろ、やめてくれ、勘違いしちゃうから…。
ティディがいなくなって握るもののなくなってしまった手で身体の下のシーツをぎゅっと掴んで硬直していると、身を起こす気配がする。
「ほら、ほんま風邪ひいてまうから。おいで」
と、肩を抱かれてそのまま寝かされた。
トップアイドルの腕枕状態。
今この瞬間、俺日本中のアントーニョファンを敵に回した気がします…
と、一瞬硬直するものの、
「誰かと一緒やと温かいなぁ。仲良うしてやってな。
一緒に良い作品作ろうな」
と、おだやかな溜息と共に呟かれて力が抜ける。
この人はすごい…と思う。
日本のトップアイドルなのに、こんな風に言われると本来パーソナルスペースが広い自分でさえ安心してしまう。
思わず少しスリッと擦り寄るとさらに抱き寄せられて心地よい温かさに目を細めた。
そしてそのまま安眠……しすぎて寝坊した。
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