鼻をくすぐる良い匂いに思わずクンクンと鼻をならし、ああ…いい匂いだ~とにまりとして気づく。
今はトップアイドル、アントーニョの家に二人きりのはずで…とするとこの匂いは……やらかしたぁあああ~~!!!!
ガバっと飛び起きれば、もういつも自宅で見て録画までしてしまっているカレーのコマーシャルの時のような爽やかな笑顔のアントーニョがそこにいる。
慌てて飛び起きると、美味しそうな朝食のトレイを片手に、片手でそれを制するアントーニョ。
「ええよ~。料理も嫌いやないし、食べてくれる相手がおれば余計に楽しいわ。
そそ、そのままおってな。実はこのベッド特注でテーブルついてんねん」
と、サイドから折りたたみ式のテーブルをベッドの上に出してそこにトレイを置き、自分もベッドにのぼってアーサーの隣に座る。
「じゃ、あらためて、おはようさん。今日から宜しくな、親分の天使ちゃん」
もう向けられたら昇天してしまいそうなイケメンスマイルに明るく甘い声。
天使ちゃん?天使ちゃんてなんだ?ああ、役名…役名で呼ばれてるのか…。
でも俺が天使ならアントーニョはなんだ?神様か?
もうこれ自体が実はドッキリか何かで撮ってるドラマなんじゃないのか?
そんな考えが脳内でグルグル回ってとっさに反応出来ないアーサーを
「まだちょっと寝ぼけてるん?可愛えなぁ」
と、アントーニョはまた抱き寄せてこめかみにキスをする。
うあぁぁあああ~~~~
もう死ぬ…きっと俺今日死ぬんだ……
などとパクパクと悲鳴すら出せずに口を開閉していると、何故かそこにひょいっとスプーンが差し込まれる。
思わず中身をモグモグゴックンすると、また差し込まれるスプーン。
もう何食べてるのかわからないくらい緊張しつつも条件反射でまた飲み込む。
「なんやぁ~もう可愛えなぁ。小動物の赤ちゃんに餌やっとるみたいやな」
とすごく嬉しそうな楽しそうな声。
耳に心地よすぎて気を失いそうだ。
いや、もしかしたらこれ夢?夢なんじゃないか?
ありえないだろ、だって数日前まで写真集買いたくてでも買うの恥ずかしくて本屋で他の本見るフリしてチラチラと視線だけ送ってるような生活だったのに、これはないだろ、ありえないだろ。
しかし最後の一匙をゴックンして隣を見ると、アントーニョがまだ自分の食事を続けているのが見える。
信じられなくてジ~っと眺めていると、微笑まれた。
「なん?まだ腹へっとる?」
と言いながらアントーニョは手にしたミニトマトを口にくわえ……
か…顔が………っ!!!!
いきなりツルリとしたトマトの表面がアーサーの口に押し付けられた。
そのまま滑り込んでくるトマトを呆然と口にするアーサーに、アントーニョは満面の笑みで
――小鳥の親子ごっこやでっ
卒倒するかと思った。
口移しでそうくるかっ?!
あざといっ!さすがアイドル、あざとすぎるっ!!
もうこれやられたらどんな相手でも落ちるんじゃないだろうか…。
こんな親鳥の元に生まれたら自分は巣立ったりできなさそうだ…。
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