ショタペド戦士は童顔魔術師がお好き【第一章】13

ズルズルとベッドの横まで椅子を引きずっていき、小さく浅い呼吸を繰り返す少年を見守りつつも、ああ…可哀想な事をした…と、思う。

聞いたところによると15歳らしいが、どう見ても12,3歳にしか見えない。
下手をするとさらに1,2歳は幼く見えるだろうか…。

こんないとけない子どもに西の国からここ中央部のサンサークルまで一人で旅をさせたなんて、想像するだに恐ろしい。
よくおかしな輩に誘拐されなかったものだと思う。

自分だったらこんな可愛らしい小さい子が一人旅などしていたら、そんな危険で非常識な事をさせる親元には返せないと、連れ帰ってしまいそうだ。

弱り切った野生の小動物のようにプルプルと震えるその様子に、聞こえないかもとは思いつつ――寒いん?――と声をかけると、眠っているようなのに無意識にだろうか…アーサーはコクコクと頷いた。

自分の分のブランケットもかけてやってるのだが、それでも寒いのか…と、アントーニョは少し考えこんで、それなら…と、上着を脱いでシャツ一枚になると、自分もベッドに潜り込んでアーサーの小さな身体を自分の腕でくるむように抱き寄せた。
すると、抵抗しないどころか、スリっと擦り寄ってくる小さな少年。

――かっわ可愛えぇぇ~~!!!!!
絶叫しなかった自分を褒めてやりたい。

もうこれ親分のやんな?!
ずぅ~~っとこうやって抱きしめて抱え込んで守ってやるんやんな?!
一生一緒やんなっ?!

熱のため寒気がひどいのだろう。
少しでも暖を取ろうかとするように懐深く潜り込んでくるアーサーに熱を分け与えながら、アントーニョは感動に打ち震える。

子どもや小動物は元々好きだが、さらにこれだけ可愛らしい子を公私共々独占出来るとは、なんのご褒美だ。

今までのようにギルベルトに色々注文をつけられながら戦っているよりも、この子を後ろに守って戦うほうが段違いに楽しそうである。

――早く元気になり?親分の可愛えおちびさん

少し苦しそうに寄せられた、その人形のように可愛らしい顔に少し不似合いな太めの眉の間に小さくキスを落とすと、アントーニョも少しうとうとし始めた。


普段ならこのままシェスタに…と雪崩れ込むところだが、今日はとりあえず敵からより先に病から自分のパートナーを守ってやらなければならない。

寝苦しそうに腕の中でコロコロ寝返りながら、しかしどういう方向を向いていようとピトッとくっついてくる様子はまんま小動物で、愛くるしい事この上なく、ついつい頭に手が伸びてしまう。
汗で張り付いた金色の髪はまるで長毛の子犬のような手触りだ。

こうして結局熟睡は出来ないままで、ドアがノックされる音に完全に目を覚ます。
エリザが食事を持ってきてくれたらしいので、スルリとベッドを抜けだすと、眠っているのであろうに、白く細い手がアントーニョを追うように伸びてくる。
その様子があまりに可愛くて、胸がきゅんきゅんする。

しかしとりあえず薬を飲ませるにしても何か食べさせなければならないので、
「すぐ戻るから、大丈夫やで。ちょっとだけ待っといてな」
と、頭を撫でてやると、手はす~っと引いていってもぞもぞっとブランケットの中に戻っていく様子が面白い。

それに小さく笑ってアントーニョはドアの方に向かって鍵を開けた。


「相棒の坊やはどう?」
ドアを開けると案の定エリザが立っていて、食事のトレイを渡してくれる。

自身もパートナーが出来たばかりで忙しいだろうに、本当に出来た同僚だ。
エリザはさらに悪友達と違って変に落としてきたりもしないので、アントーニョは思い切り思いの丈をぶつけた。

「もう……めっっっちゃ可愛えっ!!!!
なんやろ、今まで頑張ってきた親分に対する神さんのご褒美かいなっ。
ほんっまにありえん可愛さでなっ!!
聞いたってっ!熱で寒気するみたいで、添い寝してやってんけど、そしたらスリスリってちっちゃな金色の頭を懐に潜り込ませてくんねんでっ?!
もう自分小動物の赤ん坊かっ?!リスかっ?!仔ウサギかっ?!って感じやねん!!
ちっちゃくてふわっふわで、かっわ可愛えわぁ~~!!
とりあえずアレやなっ。
どこぞの変態は近づかせへんようにせんとっ!!
……あっ……堪忍っ。
親分の仔ウサギちゃんが可愛え話はまた今度なっ!
あの子泣いとるっ!!」

と、怒涛のように言い放った挙句、しかしすぐ、クスン、クスンとわずかに聞こえるすすり泣く声に気づいて、アントーニョは慌ただしくドアを閉めた。

いかに自分のパートナーが可愛らしいか、悪友の変態を含むこの世の悪から守ってやらねばならないかを主張するのは大事だが、あの子をまず癒してやるのが優先だ。

前衛仲間で盟友のエリザであれば、事前の打ち合わせなどなくとも、アホ共がおかしなちょっかいをかけてくれば協力してあの子を守ってくれるはずだ…と、アントーニョは信じている。

敵?敵なんかがこの子の半径5m以内に近づこうとした日には炎のハルバードで粉々に叩き潰す気満々だ。
ある意味…祖父だけあって孫の性格や好みはわかっているのか、ローマは非常に効果的な人選をしたと言える。


ともあれ、半分寝ぼけ眼でクスンクスン泣いている愛し子の側に戻ると、アントーニョはガチャっと若干乱暴にサイドテーブルにトレイを置いて、ベタベタに甘い声で

「堪忍な~。大丈夫やで。親分側におるで」
と、覆いかぶさるようにした自分の胸元に小さな黄色い頭を引き寄せる。

しばらくはそのままトントンと赤子にしてやるように背を叩いてなだめてやり、いつしか涙が止むと
「落ち着いたんやったら、飯食おうか?」
と、食事を勧めた。


食事はもちろん手ずから与える。

最初はアーサーも遠慮するが、
「絶対安静やって医者も言うとったし、なんもせんと寝てな元気にならんよ~」
と、横たわらせた小さな口元にスプーンを持って行くと、諦めたらしく、パクン、パクンと食べ始めた。

時折、いいのだろうか?という感じに大きなまんまるの目でアントーニョを見上げるが、にこりと微笑んでやると、熱で赤い顔をさらに赤くして、おろおろと視線を彷徨わせるのが本気で可愛い。

食事が終わるとこれも遠慮するのを制して汗をかいた体を湯で濡らしたタオルで拭いてやり、まだアーサーの荷解きが終わってないからと、自分のパジャマを着させてやった。
これがまたブカブカで愛らしい。

絵心があれば絵に描きとめておきたいところだが、あいにくないので、心のスケッチブックにしっかりと記録しておく。

こんな風にアントーニョにとっては幸せこの上ない1週間が過ぎていった。



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