寮生はプリンセスがお好き5章_1

新寮長耐久イベント夏の陣


放課後の視聴覚室に4人の男子高生。

3年の金虎寮の寮長カイン、銀虎寮の寮長ユーシス。
2年の金竜寮の寮長ロディに銀竜寮のルーク。

いずれも寮長だけあって体格も良く知性にあふれた美丈夫だ。
4人集まるとなかなか壮観である。

学園を代表する文武両道の優等生達。
それが人目を避けるように集まって、にこやかに黒い会談に興じていた。


「ふっふっふ。1年坊主達、絶対にあれで全部終わったと思っているよな」
「でしょうね」
「思っててもらわなきゃ困るだろ。そう思わせるためにこんなに日を空けたんだからな」
「だよなっ。絶対にもう油断しきってるぜ、きっと」

「ほんと、甘いよなっ。俺らは苦労させられたんだ。
今年の1年だけ先輩巻き込んで楽な耐久ですますなんて許さねえ」

「まあ…俺はうちのフェリシアーノをあまり巻き込みたくはないんですが。
…皆さんの所と違ってか弱いので」
「そりゃあどこの寮も一緒だろうよ。自寮の姫は巻き込みたくねえ」

「でも…まあ、俺らのフォローもあって乗り越えた前回で、1年坊主達だけが加点されてる分を取り戻すということになれば、話はまた別。寮のポイントは姫のポイントだしな」
「まあなぁ…」

「ともあれ…とりあえず鬼軍曹を出し抜いてみたいっ!」
「おまおれ」
「やっぱり一番の目的はそこですか…」

「…あとが怖えけど……」
「………」
「………」
「………」

怖いもの知らずの猛者達…だが、そのほとんどが今年卒業した銀狼寮の前寮長だった本田菊に戦いを挑んで、何故か彼にお守りされるはずの当時のプリンセスのギルベルトに返り打ちにされていた。

寮長はそれぞれに護身術を身につけているし、そもそもが寮長の条件と言うのが成績とその年のお題になった武道で勝ち抜く事だということもあり腕に覚えがある者ばかりなのである。

それなのに、銀色のロングのウィッグと礼装っぽい軍服を身に付けた、入学当時にはその寮長達よりも二周りくらいは余裕で小さかった中学1年生にコテンパンにのされたのは衝撃過ぎた。

そして、その強すぎるプリンセスについたあだ名が件の【鬼軍曹】。

その後も寮長達に限らず腕に覚えのある寮生達が挑み続けたが、百戦錬磨。
いまだ勝てた者はいない。

すでに彼も副寮長『』ではなく寮長『カイザー』なのだが、卒業までに一度はぎゃふんと言わせたい相手ナンバーワンだ。

…まあ…正面切って挑んでも勝てる気は全くしないのではあるが……


正式な決闘という形で申し込めば申し込んだ側も受けた側も自己責任と言う事で、急所を狙わないというルール以外はルールらしいものもなく怪我も容認というものなので、文字通りボコボコにされる。

降伏すればストップはかけてはくれるものの、それまでの攻撃は実に容赦ない。

もちろん今の寮長達も全員、寮長時代または寮長になる前、一度はギルベルトに勝負を挑んでいる。

それどころか、なかには年上と言う事もありプライドが邪魔をして降伏宣言が遅れて、半月ほど医療設備が整った保健室で寝たきりで特別授業を受けた猛者もいるくらいだ。

その公明正大な姿勢のため遺恨を残したり嫌われたりする事はないが、勝負を挑んだことのある者は皆その圧倒的な敗北を経験しているので、彼を敵に回す事に恐怖心を覚えていた。

それは現在学園のスクールカーストのトップに君臨する寮長達ですら例外ではない。

――あとが怖えけど……
と、その金虎寮の寮長カインの呟きは、他の3人の脳裏に体育館の床にたたきのめされた時の殺気と物理的な激痛を思い起こさせた。

自然と青くなる顔色。
開かなくなる口。

そこでぽん!と手をうつ銀虎寮の寮長ユーシス。

「ぎ、銀狼寮のお姫ちゃんを巻き込めば大丈夫っ!
軍曹はあの子にベタ惚れみたいだしなっ」

前回の新寮長イベントでギルベルトが連れていたちっちゃなプリンセス。
もう一人の1年生金狼寮のプリンセスがでかかったせいで、余計に小さく見えたその少年は、同性と言うのが嘘のように愛らしかった。

そして…自分たち以上にギルベルトが彼を愛らしいと思っているのが何かにつけヒシヒシと伝わってきたイベントだったのだ。

「だよなっ!
本来は5月に行われるはずだったのにきちんと行われなかった新寮長と副寮長でのみ行われる耐久イベントの代わりのイベントだし、それでポイントを取れれば前回の分と2倍ポイントが入るわけだしな。
1年坊主達にしたって悪い話じゃないはずだ」
「うんうん」

あの子なら丸めこめるっ!

全員が全員脳内で思った。


「ま、そういうことで…ルーク、会場は俺が別邸を用意するから、学校への許可申請とか細かい準備を頼むなっ」
金銀虎の寮長達が左右からぽんぽんと銀竜寮の寮長の肩を叩いた。

「…嫌な予感しかしないんですが……」
と、それでもそれほど強い後ろ盾を持たない銀竜寮の寮長ルークは政財界の大物を親に持つ両先輩には逆らえず、深い深いため息をつく。

こうして新寮長耐久イベント夏の陣は水面下で着々と準備が行われる事になったのであった。




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