純情BOYと生真面目BOY
そして学校。
一番身近な同時期に任命された同学年の副寮長がそこには居る。
しかしながら…だ、彼は参考にならない…副寮長時代のギルベルト以上に参考にならないのではないだろうか……と、アーサーは朝からため息をつく。
寮に入寮して1カ月と言う事は、当然のごとく学校が始まってからもはや一カ月が過ぎようとしていた。
中学から編入してきた外部生はもちろんだが、小等部からこの学校に通っている内部生もやはり中等部は色々と勝手が違っていたらしい。
それぞれに慣れぬ中、寮生活や学校生活に四苦八苦しながら、それでもそろそろなんとか日常生活には少し慣れてきた。
朝、8時にそれぞれ寮を出て8時20分までには学校の各教室に着いておく。
それから10分ほどのホームルームのあと8時半から授業。
クラスは2クラスだが寮別ではなく成績別。
アーサーは上位半数のAクラスで、ルートも当たり前にAクラス。
あまり勉強が得意には見えないアルが同じクラスだったことはアーサーは少し意外に思ったが、ルートいわく
「外部生は一応受験をして学校に入ってきているからな。
入学当初からAクラスに入れないようなら、そもそも試験に受からない」
と聞かされて、なるほど、と、納得した。
寮はある程度成績が偏らないように分けられているため、学校のクラスはともに金狼寮の寮生と銀狼寮の寮生がおおかた半数ずつくらいいて、たいていは寮ごとに固まるのが普通なのだが、今年は教師が目を丸くする程度には異質らしい。
金銀双方の寮生が混じっている…というか、主に金狼寮の寮生が警戒する銀狼寮の寮生に対してありえないフレンドリーさを見せていた。
そもそもが寮の象徴であるはずの金狼寮の副寮長のアルフレッドがまるで銀狼寮の寮生のごとく、護衛でもするかのように銀狼寮の副寮長のアーサーについてまわっているのである。
常に他がアーサーに過度の接触をしないように自分が割り込むが、しかしながら、では自分がベタベタと接触するかと思えばそれもない。
体育の着替えの時などはアーサーを更衣室の奥に誘導。
その上でまるで自分がついたてとなって隠すようにそれより少し中央寄りに立ちはだかり、他のクラスメートをそれより入り口側へと追いやる。
もちろんプリンセスの護衛を自任するルートが他寮のアルにその役割を譲るつもりは到底なく、さらにそれに並ぶものだから、大柄な2人だけに妙な迫力があって誰も近寄れない。
そして双方どこか敵対心のようなものを滲ませる2人に気まずそうなアーサーに、同級生達は同情の目を送るのが日常になっていた。
「…出来れば君もあまり近寄らない方が良いと思うけどね」
「それはこちらの台詞だ。
俺は銀狼寮の寮長から正式にプリンセスの護衛を依頼されている。
何を企んでいるかわからぬ他寮の輩とは違う」
「Oh!本当にナンセンスだよねっ!
俺はそんな義務でアーサーを守ってるわけじゃないよっ。
寮なんて関係ない。
アーサー個人に対する好意からこうしてるだけさ」
「俺だって別に義務だけじゃないっ!
アーサーは俺にとって最初の友人で、彼にとってもこの学校で最初の友人は俺だっ」
「別に早ければ良いってもんじゃないよね。
誰がよりアーサーを守れるか、それが重要じゃないかい?」
「スト~~ップ!!」
もうこの1カ月ですっかりクラスの風物詩となりつつあるこの言い争いにストップをかけたのは、まさに二人の争いの原因になっているアーサー本人だ。
「2人とも、毎回毎回着替えのたびに口論するのはやめてくれ。
クラスの皆にも迷惑だ」
「ごめん…」
「…すまん…」
太めの眉を少し寄せてそういうアーサーに、クマと大型犬のような2人がとたんにショボンとうなだれた。
なまじ大柄な2人が身を縮めるようにして落ち込む姿はどこか可愛いなと、そこでそんな事を思いつつ、アーサーは少し表情を緩める。
「心配してくれるのは嬉しいけど…そもそもが役割的に副寮長なだけで、俺だって男だしそんなに守ってもらわなくても大丈夫だから…特にジョーンズ」
ルートは同じ寮の寮生でこの学校では寮の象徴である副寮長を護衛するのが半分義務となっているのだから仕方ないとして、何故アルフレッドまでそれに加わるのかがわからない。
そう…例の一件でアルフレッドがあんな誤解をしていると言う事はアーサーは知らないのだ。
知らないから当然誤解を解くという発想もなく、ただただ不思議に思うのだった。
しかしながら絶対に副寮長としてはアルフレッドの行動性はおかしい。
そもそもが自寮の寮生よりも他寮の副寮長である自分により気持ちが向いているあたりで、副寮長うんぬんというより、寮生として有るべき姿からもかけ離れている気がする。
さすがにこれは参考にしても理想的な副寮長に近づけはしない…と、アーサーはため息をつく。
一番身近な副寮長が参考にならないとなると、あとは上級生か。
あとで誰か、小等部からの学生に他の学年の副寮長の話でも聞いてこよう…と、アーサーは心の中で決意する。
そう…ゴツイ2人が後ろに控えてても普通に雑談に興じてくれるようなつわものがいれば……の話ではあるが……
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