親分と魔法の子猫11

こうして本気で何がなんだかわからないが、その夜は妙に恭しい態度で接してくる悪友3人に連れられて、夕食を摂り、自宅まできっちり送られていった。

こうして3人揃って送って来てくれて、3人揃って帰って行ったあと、鍵をかけて奥へ戻ろうとしたイギリスは、チャイムの音で再度ドアまで引き戻された。

何か忘れ物でもしたのだろうか…と、ドアを開けると、立っていたのはプロイセンだった。

こいつに限って忘れ物ということはないし、逆か。俺何か忘れ物したのか…と、思っていると、プロイセンは何か言おうと口を開いては言いよどんでというのを数回繰り返し、結局一度深呼吸をして、それから視線をきっちり合わせて

「悪ぃ。どうしても確認してえ事があって…。10分だけ時間いいか?」
と、ひどく切羽詰まったような表情で言ってきた。

もしかして…今日3人の様子がおかしかった事についてだろうか……

「ああ、入れよ」
と、イギリスは中に招き入れようと少し身体をずらすが、プロイセンはそれには少し困ったように、首を横に振った。

「いや、二人きりは色々まずいし、ここでいい」
「……?」
「あ~、俺様も明日会議だし、上がり込むと遅くなっから」
不思議そうにするイギリスの様子に、苦笑して言い直すプロイセン。

こうなるとそれ以上勧めても考えを変える相手ではないので、イギリスは素直にうなづいて
「で?」
と、先を促した。

「…唐突なんだが……」
言いにくそうに少しうつむいて、くしゃくしゃっと髪を掻きながらプロイセンは口を開いた。

「お前…スペインとなんかあった?」

それはこっちが聞きたい。
確かに子猫の状態では一緒に暮らしているが、人間の姿の時にまでまとわりつかれる理由がわからない。
というか、プロイセンは何か知っているのか?

「いや。なんで?俺の方が聞きたい。
今日のスペインの態度とか、お前こそなんか知ってるのか?」

何も知らないのなら、もしくは教える気がないのなら、わざわざこうして尋ねては来ないだろう。

そう思って聞き返すと、プロイセンはまたくしゃくしゃっと頭を掻き、少し言いにくそうにイギリスから視線を逸らせた。

「スペインがお前を構いたくなったのは知ってる。
あいつが溺愛してる猫に似てんだよ……まゆげとか」

まゆげかよっと、そこで突込みをいれると、まあ性格とかもなんとなくな、と、プロイセンは付け足した。
そして続ける。

「それはいいんだ、それは。スペインはそういう奴だから。
でもパーソナルスペースが広いお前が、あいつが頬やら額やらにキスしてくんの、普通に受け入れてっし…俺らが知らねえとこで、二人何かあったのかと…」

あ~~!!!!!

指摘されてイギリスは初めて自分の失態に気が付いた。

子猫の姿の時に毎日されてるので、それを当たり前に感じていたが、言われてみれば自分の反応は確かにおかしい。

朝もつい子猫の時のくせで指をなめてしまったし……まずい…非常にまずい。
これはばれるのは時間の問題なのではないだろうか……。

青くなったイギリスに、プロイセンはひどく真面目な顔でそらしていた視線を合わせた。
ガシっと両手でイギリスの肩をつかんで、少し身を乗り出す。

「なんか困ってんのか?なあ、話せよ。お前と俺様の仲だろ?」
真剣に心配している…と、その顔に書いてある。

プロイセンは戦いで戦略をめぐらす事はあっても、人の心を傷つけたり弄んだりすることはない男だ。
しかも…『お前と俺様の仲』…ということは、やっぱり大切な友達と思ってくれているらしい。
その気持ちが嬉しい。ほわほわと温かい気持ちになる。

「…困ってる……」

子猫の時間が長かったせいだろうか…最近誰かに頼る事に以前ほど抵抗がなくなっている。
もちろん相手が信頼できる人物であることは必須条件ではあるが…。

スペインにばれて嫌われたくなくて…でも自分ではお手上げで…そして…自分を大切な友達と思ってくれているらしい、しかもスペインを良く知っていて親しい男が目の前にいると思うと、つい一言本音がこぼれ出た。

特徴的な眉をハの字にして童顔の大きな要因でもある子供のような目でそうつぶやけば、厳しかったプロイセンの顔がほわりと綻んだ。

「やっぱ、そうか。いいぜ。俺様に話せよ。なんとかしてやるっ」

ケセセっと特徴的な笑い声をあげて、肩を掴んでいた手を離すと、今度はイギリスの背をぽんぽんと叩く。

「ちょっと色々事情があって…長くなるから家に入らないか?」
と、その答えに安心してイギリスがそう勧めると、
「おう、そうすっか」
と、プロイセンは今度は素直にイギリスの勧めに従って家に足を踏み入れた。

そして…自分が思っている方向と真逆な話をされて心ひそかに落ち込むことになるあたりは、さすが普憫と呼ばれる男ではあるが、この時のプロイセンはそんなことは想像をもしてみないし、イギリスはこの時どころかその後もそんな人の良い男の気持ちには気づかないで終わるのである。





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