日々大事にされている。
自分にはそんな価値はないのに大事にされすぎていて居たたまれないほどだ。
それでもそれに感謝するよりも、こんなに大事にされる事に慣れ過ぎて、周りが自分にそんな価値がないと気づいて離れて行ったら絶対に辛い、耐えられるだろうか…などと心配している自分が嫌だ…と、落ち込むが、口に含んだ朝食は落ち込んでいてもやっぱり美味しい。
ああ、ここはせめて自分が相手の分も注ぐべきだったよな…などとさらに落ち込む。
すると
「クロックムッシュ…口に合わなかったか?」
と、聞かれてアーサーは慌てて首を横に振った。
そしてモグモグごっくんとそれを飲み込んだあと、おそるおそるギルベルトに視線を向ける。
「すごく美味しい……でも……」
「でも?」
「今日も鍛練できなかったし…俺何も出来てない…」
じわりと浮かぶ涙に、ギルベルトが困ったような表情を見せた。
ああ、困らせている…。
何もできないくせに困らせる事だけは人一倍とか、なんだそれ…と思えば余計に溢れてくる涙。
それでも呆れる事無く、ギルベルトはハンカチを持った手を伸ばしてアーサーの目尻に押しあてた。
そして
「本気でなぁ…お姫さんは何でそんな自己評価が低いのかわかんねえけど、本当に今のままで十分可愛いし、俺らにとっては…筋トレとかよりお姫さんがいつも健やかに幸せそうに笑っててくれる事が重要なんだけどなぁ…」
と、クシャクシャと頭を掻く。
「でも…みんなが俺のために努力をしてくれるなら、俺だって努力をしないと…」
「いや、でも筋トレする必要は…」
「だってギルはやってるし、以前からやってたんだろ?
寮で一番綺麗で強くて銀狼寮だけじゃなくて他寮の学生にも憧れられてたって聞いた」
「あ~…俺様はな、そうだったんだけど、何度も言うようにそれは本来のプリンセスの有るべき姿とは違うからな。
俺様の時はたまたま寮長が稀有な高等部からの外部生で色々に慣れてなくて、それをフォローして守ってやらなくちゃならないってのがあったし、軍服風味のモン着てたのも、筋肉つきすぎて本当の女モン着たら目も当てられない状態だったからだしな。
それはプリンセスとしては褒められた事じゃねえからな?」
とにかく…と、ギルベルトはとうとうフォークを置いてアーサーの前に回り込んできた。
そしてアーサーの前に膝をついて綺麗な切れ長の紅い瞳でじっと顔を覗き込む。
「お姫さんが無理して青い顔してたら、俺様を含めて銀狼寮の寮生みんな心配すぎて何も手につきゃしねえ。
過労も度を超えると死ぬからな?
大事な大事なお姫さんにもしものことがあったら、少なくとも俺様は一生自分が許せねえ。
それが俺様が副寮長の時にやってきた事が起因となっているとしたらなおさらだ。
だから…頼むから…俺様が副寮長だった頃を目指さねえでくれ。
本気で大事だから。
守れずに壊しちまったとか言う経験だけはさせねえでくれ。
お姫さんが望むなら何でもやってやるつもりだけど、本当にそれだけは嫌だからな?」
そっと頬に添えられる少しゴツゴツと固い…しかし大きく温かい手。
訴えるように縋るように見つめる目は美麗すぎて直視できずにアーサーは
「…わかった……」
と俯いた。
もうここまで言われると頷くしかないのだが、本当にどうしたものだろうか…
文武両道という形ではなく理想的な副寮長になるにはどうしたら……
ああ、本当に副寮長としては寮長の護衛を兼ねたキレ者の麗人、そして今は学校一優秀なトップ。
そんな寮長の対の存在としては自分はあまりにも冴えないフツメン過ぎて本気で居たたまれない。
副寮長時代のギルベルトを参考にするなと言う事なら、もう他の副寮長を片っ端からチェックするしかないか…。
それでも何もしないという選択肢を選ぶ気には到底なれず、アーサーはとりあえず学校で同級生達から情報を集めようと秘かに決意し、食事を続けることにした。
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