寮生はプリンセスがお好き3章_3

寮長がイケメンすぎて人生が辛い件について


アーサーの朝は芳しい紅茶の香りと

――guten Morgen、朝だぜ?お姫さん――
という少しハスキーなイケボのお目覚めボイスから始まる。

前者はとにかく後者は朝っぱらからなかなか心臓に悪い。
副寮長に選ばれて早1カ月、つまりこの生活が始まって1カ月たつわけだが、未だに慣れない。

そう、今まで他者から大切に大切にされるなんて人生なんて送った事がなければ、こんな目の覚めるようなイケメンが常に寄りそう生活を送った事なんてさらにない。

しかも顔だけじゃない。
校内どころか全国レベルでトップクラスの頭脳と身体能力の持ち主で一説によると楽器も巧みに操り料理上手というおまけつきときた。

そんな完璧な寮長様が毎朝アーリーモーニングティ片手に起こしにくるのだ。
どこの二次元だと思う。

しかも恐ろしい事に、朝は先に起きてはいるが、そのイケメンは毎晩隣でアーサーを抱え込むように眠っているのである。



事の起こりは入寮したての頃、副寮長となったからには大切にされるのにふさわしいような立派な副寮長になろうと張り切りすぎて貧血を起こして倒れた時のことだった。

『別にな、お姫さんはそのままで十分可愛いんだから、勉強できねえでも武道できねえでも全然構わねえんだって』

と、寮長のギルベルトは言うものの、ではギルベルト自身の副寮長時代はと言うと、文武両道の麗人として自寮はもちろんのこと他寮の学生にも憧れられていたというのだから、そのあとを継ぐアーサーが何も出来ないちんちくりんで良いわけないじゃないかと当然のごとく思う。


こうして頑張った結果…情けない事に体力不足でダウンした。

それでも少し休めば…と言うアーサーにオーバーワークをさせないで休息をしっかり取らせるためにと、ギルベルトはベッドを抜け出せないように有無を言わさずアーサーを抱え込んで添い寝をするようになったのだ。

そのくせ自分は早朝に起きて鍛練をする。
そして朝食を作り、アーサーを起こしにくるのだ。

もちろんアーサーだってそれに合わせて起きようとは思った。
思ったのだが、ギルベルトは目覚まし時計もなしに目を覚ましてこっそり抜け出すため、アーサーが気づいたら時間が過ぎている。

ではずっと眠らなければ…と思うのだが、筋肉質だが温かい腕で胸元に抱え込まれてトクトクという心臓の音を聞きながら、ポンポンとなだめるように背を優しく叩かれていると、心地よさに力が抜けて、ついつい眠ってしまう。

それでもたまに早く目を覚ますと、その時はギルベルトはにこやかに

「お、今日は早いな、お姫さん。
じゃ、一緒にウォーキングでもすっか」
と、走り込みを中止。
散歩に変更されて、結局鍛練が出来ない。

こうして焦りばかりが募って行く。

今はまだ副寮長に任命されたてだから皆も優しいが、そのうち前任者のギルベルトと比べてあまりに能力的にも外見的にも貧相な自分は愛想を尽かされるのではないだろうか…。
優しかったみんなが冷たくなっていくのは辛い…。

どうして良いかわからず、しかし今日も目が覚めたのは朝の7時。
ギルベルトが起こしに来てくれてからだ。

そして10数分後、食卓代わりのリビングのソファに座る。

テーブルの上からは美味しそうな匂い。
これも寮の食堂に行く時間があれば少しでもアーサーを休ませたいというギルベルトの心づくし、手作りの朝食である。

そんなギルベルトの気づかいを前に、アーサーは頂きます、と、手を合わせてクロックムッシュを口に運んだ。






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