寮生はプリンセスがお好き3章_2

まあ…まだ慣れぬ学園生活、寮生活、そして副寮長としての生活に疲れるのだろう。
アーサーが目覚ましなしで早く目が覚める事など滅多にないのだが…。

今日もやっぱりお姫さんはギルベルトが起きても眠ったままで、ギルベルトは40分ほどの走り込みを済ませたあと腕立てや腹筋を黙々とこなし、さっとシャワーを浴びると朝食の準備に取り掛かる。

パンケーキやオムレツを焼いたりする日もあれば、フルーツグラノーラなどで簡単に済ませる日もあるが、お姫さんの目覚めには紅茶が欠かせないのでそれは必ず丁寧に入れた一杯を乗せたトレイを手に、ギルベルトは寝室へと向かう。


そして

――guten Morgen、朝だぜ?お姫さん

と、ベッドの端に座ってその愛らしい寝顔にそんな言葉をかけるのが、最近ギルベルトの日課に加わったのだった。


――…ん…ぅ………ぎる…?
まだ小さな白いこぶしで眠そうに目をこする仕草が小動物の子どものようで愛らしすぎて、動悸さえ覚える。

――…朝だぜ?今日はクロックムッシュ作ってみた。これ飲んで目ぇ覚ましたら着替えてリビングな?

ぴょんぴょんと盛大に跳ねた小麦色の前髪をそっと指先で払えばその下には真っ白な広い額。

それに軽くキスを落とすと、ギルベルトは片手でアーサーの半身を起させて、その手に紅茶のカップを握らせてやる。

――Thanks
――Bitte sehr(どういたしまして)

まだ寝ぼけ眼で礼を言いつつ、カップを両手で持ってコクコクと中身を飲み干す様子はやはり普段は決して手放さない冷静さがすっとんでいく勢いで愛くるしくて、平静さを保つのに苦労する。

自分の事はかなりの実利主義だと思っていたのだが、そんな自分にこんな甘ったるい感情が沸いて出る事があった事には本当に驚きだ。

「じゃ、俺様はあっちの用意してくるな。
お姫さんは慌てないで良いからゆっくり支度して来いよ?」

そう言ってくしゃりと黄色の頭を軽く撫でた手を寝室を出て思わず小さく口づけてしまう程度には、自分は形式的には受け入れて従っても絶対に染まらないと思った学校のこの制度にかなり毒されていると思う。

それでも……

――あー、お姫さん、可愛すぎて毎日辛いぜ
と、日々楽しくてにやけてしまうのだ。




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