同居相手は金色子猫9

こうして始まった悪友達の飲み会。

頬ずりは不可、しかし手で撫でるのは許可されたプロイセンは、

「ふわふわで俺様ごのみの触り心地だぜ~」
と、楽しげにアーサーを撫でまわしている。

ペットを飼っていて撫で方も上手いので、ついついゴロゴロ喉を鳴らすと、その都度スペインがむぅ~っとした顔で、プロイセンの手を叩いたり抓ったりするが、それでも懲りずに撫でるのがすごい。

一人蚊帳の外なフランスは少しつまらなさそうに、

「良いもんっ!お兄さん今度坊ちゃん撫でて遊ぶから。
あの子だってね、ぼさぼさっとした見かけによらず、触るとふわふわの気持ちいい髪質してんだよ」
と、お前らは知らないでしょう、とばかりに自慢するが、墓穴だったようだ。

「あ~、そうだよな。あいつも触り心地良い髪してんな」
と、プロイセンが、
「そうやな。撫でたったら、めっちゃ柔らこうて気持ち良かったわ~。しかもあの子抱きしめると薔薇の香りするんやで」
とスペインが口をそろえる。

「だ、抱きしめたって…っ?!」

お兄さんだって子どもの頃以来、そんなことさせてもらえないのにっ!!と思わずガタンとローテーブルに手をついて乗り出すフランスに、スペインは得意げな笑みを浮かべる。


「この前の世界会議の後な、実は隣の部屋におってん。メタボが追っかけてきたら嫌やったし。んで、あの子な、いきなり連れてきたったから、びっくり眼でめっちゃ可愛いかったさかい、つい抱きしめてもうた~」

うあああ~~!なに言ってくれてんだっ!!!!

スペインのポケットの中で羞恥のあまりのたうつイギリス。

それを外に出たいのかと勘違いしたプロイセンが、出してやろうと伸ばした手は、視線はフランスに向けているはずなのに気配で察したらしいスペインに、パシっとはたかれる。

まさか…泣いてた事とか言わねえだろうな…いや、話の流れからすると言われるか……

と、まさに今この瞬間に泣きたくなったが、幸いスペインは単に抱きしめた経過を言いたかっただけらしく、詳しく語ることはなく、

「調子にのってデコにチュウしたったら頭突きされて逃げられてもうたんやけど」
と締めて、アーサーをホッとさせた。

その言葉にホッとした様子を見せたのは、アーサーだけではなかったようである。
何故か隣のプロイセンと正面のフランスからも、ホッと息を吐き出す気配がする。

アーサーはアントーニョのポケットの中から、最初にプロイセン、次にフランス、と、視線を向けて、きょとんと首をかしげた。

「ま、まあ、あいつ結構突発事項に弱いからなっ。
スペインの唐突な行動に一瞬対処できなかったんだろうなっ」

とプロイセンが、

「そっか~。坊ちゃん他人との接触苦手だからね。
そりゃ頭突きくらいされるよね。…てか、それで済んで良かったね」
と、フランスが、複雑な笑みを浮かべて口をそろえる。

そんな二人の反応も気にすることなく、スペインはパンコントマテを一齧り。

「親分なぁ…あの子もこの子と一緒にうちで育ててやりたいねん」
と突然始めて、アーサーを含む二人と一匹の頭に思い切りはてなマークを浮かばせた。

「育てるって…」
「あいつ確かに童顔だけど、俺様よか年上だぜ?」
と、それぞれフランスとプロイセンが不思議そうに首をかしげるのを

「そんなんどうでもええねん」」
と、切って捨てる。

――いやいや、どうでもなくねえだろっ?
――実年齢1000歳以上の国を育てたいってお前頭大丈夫か?

と、言葉はしゃべれないものの、アーサーも脳内で突込みをいれる。

もちろん口に出されている突込みもスルーな男がそんな脳内突込みに対応することはない。
周りの反応など本当にどこ吹く風で、スペインはハァ~と深く息を吐き出した。


「親分な、子どもやったんやなぁ。
上司があの子の上司と結婚したった時に素直になれんだけのあの子に気づいてやれんで、構ってやらんかったから。
あの頃もっと可愛がったったら、今頃アーサーみたいに親分の手ん中でほわほわ笑っとったんやと思うんや」

いやいや、その妄想はどこから湧いて出た?!…と、スペイン本人以外の目が言っているものの、そんな空気をスペインが読むはずもない。

「でもこの前の世界会議でな、急に部屋連れてこられた時にアーサーみたいにびっくり眼になっとったあの子見て、今からでもいけるってわかったんや。
親分、次の世界会議からやったるでっ!あの子可愛がって可愛がって可愛がって…イギリスとアーサーで楽園生活したるわっ!」

確信をもってぐっと手を握りしめて宣言をするスペインの唐突さに誰もついていけない。

「…う…うん、まあ、あんまり強引にしすぎないようにね?
あの子怒ったら、関係なくても殴られるのお兄さんな気がするから…」

と、遠い目をするフランスに、(…よくわかったなっ)と、アーサーはスペインのポケットの中から同意しておく。

一方でプロイセンは真面目な顔でスペインを振り返った。

「なんでも躊躇なく行動出来んのはお前の良いとこだけどな、イギリスに関わるなら、中途半端にかかわってやんなよ?
あいつはガードかてえけど、その分それを外して中にいれちまうと無防備なとこあっから。
絶対に中途半端に関わって中途半端に投げ出すな。
それやったら俺様にも考えがあっから」

いつになく厳しい顔で言うプロイセンの言葉には、さすがにスペインも茶化さずに

「親分久々に本気で行くつもりやねん。プーちゃんこそ邪魔せんといてな?
なんやったらまだ昔のハルバード手入れしてとってあるから、やりあう事になるで?」
と、こちらも口元は笑みの形を描いているが、視線が殺気立っている。


な、なんなんだ?もう酔ってるのか?お前ら怖えよっ!!と、アーサーがポケットでプルプルしていると、なんと漁夫の利野郎、正面攻撃は絶対にやらないと思っていたフランスまでが、

「は~い、お兄さんもお前のやり方次第ではプーちゃんに加勢するからね?
心して行動してね」
などと手をあげる。

一気に冷え込む空気。

気の置けない悪友が集まった馬鹿で楽しい飲み会じゃなかったのかよっ!!
と、焦りつつ、これ以上この空気に耐えきれなくなったアーサーはスペインのポケットを飛び出して床に降り立つと、

「ま~お~~」
と、空っぽになったミルク皿を前足でぱふぱふと叩いた。

とたんにまずスペイン、それからプロイセンと、消える殺気。


「なんや~、今日はアーサー腹減りさんやな。みんなが食っとるせいか?
いっぱい飲んでもええけど、お腹壊さんようにしといてや」
と、さきほどの殺気が嘘のように、ほんわりと笑顔でミルクを取りに立ち上がるスペイン。

プロイセンも続いて立ち上がると、
「一応これいったん洗うな」
と、ミルク皿を手に取る。

「あ~、プーちゃん頼むわ~。親分ミルクの用意するさかいな」
と、さっきまでのやりとりの険悪さはどこへ行ったと言いたくなるような、和やかにして穏やかなやりとりが交わされて、アーサーは力が抜けてぱふんとその場にへたりこんだ。



こいつらの飲み会っていつもこんななのか?
実は全員酒癖悪いのか?

用意されたミルクをぴちゃぴちゃやりながら、上目づかいに様子をうかがうと、もう普通に馬鹿話で盛り上がっている悪友3人。

ああ、本当によくわかんねえ。
今度の世界会議…いったい何が起きるんだ?

正体がばれるかも…という危機はとりあえず去ったようだが、まだまだ不安はてんこ盛り。
…というよりは、増えている気がする。


もういっそ猫として一生を送ってしまいたい…と、アーサーは酔いつぶれた悪友達の顔をエイエイッ!と順番に踏みつけながら、ま~お、と一鳴き、一人自分のクッションの上で丸くなるのだった。




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