続恋人様は駆け込み寺【白雪姫の継母は毒林檎を差し出し赤の女王は首を刎ねろと叫ぶ】12

「お?どうしたんだ?戻ってきたのか?」

ギルベルトが向かって行くとエンリケは即身を翻して再度雨の中へと消えていったため、王への用心のためにも深追いはせず、床にへたり込んで震えている水木を回収して二階へと戻りかけたギルベルト達は、逆に上から下りてきたアントーニョ達と鉢合わせた。

目を丸くしてそう声をかけるギルベルトに、

「暗い中だと探索も危ないですし、とりあえず朝になって明るくなるまでリビングで休んだ方がいいんじゃないかと言う話になりまして…」
と、マシューが少し疲れたようにほほ笑む。

そんな場合なのだろうか?のんきに休んでいて危険じゃないんだろうか?と、ギルベルトを始めとする数人の脳内にはそんな言葉が浮かぶが、それに対してはアントーニョがきっぱりと、

「黒幕がエンリケなんやったら無差別殺人にはならへんから。
アーティがおる所で全員が危険にさらされるようなことは起こさへんよ」
と断言して、少なくともこれまでの経緯を知るギルベルトとフランシスは納得した。

そして…フランシスの説明で加瀬英二が、ギルベルトの説明で同じく黒井とマシューが納得し、水木は一人相変わらず神経質に怯えている。

それでも先ほどの事もあり、一人で何かを出来るわけでもないので、大人しく大勢に従った。

こうしてリビングに戻ると、ギルベルトとマシュー、それに勘が良いアントーニョが部屋の安全を確認後、全員リビングに入って、途中で近くの部屋から失敬したカーテンをブランケット代わりに眠る事にする。

「どうせ寝れない奴もいるだろうし?
知りたい事があれば、俺様見張りがてら、今回の黒幕の事について知ってる限り話してやるよ」
と、早々にダイニングから運び込んだ椅子をドア脇に置いて座り込むギルベルト。

「じゃあ僕は寝ておきますね。あとでギルベルトさんが眠くなったら見張り代ります」
と、てっきり情報収集かと思いきや、マシューは早々寝ることを選択する。

(まあ…僕が行動、判断するのに必要な事だけあとでかいつまんで教えて頂ければ結構ですよ)
ギルベルトの横で二人にしか聞こえない程度の小声で言うと、

「じゃあ、お先に。おやすみなさい」
と、それは普通のトーンの声でいつものほんわかした笑みを浮かべて言って、マシューはカーテンを手に4つあるソファの一つに陣取った。

「ほな、アーティも疲れてるやろし、俺らも寝るわ~」
と、アントーニョも当然就寝組だ。

しかしこちらはアーサーをしっかりと抱え込んで寝るには少々ソファは狭いので、暖炉を背にしたソファの後ろ、ほどよく暖かそうなあたりに、ふわふわのファーの敷物を引きずってきてその上に二人して横たわる。

「じゃあ俺も寝かせてもらいますわ~。なんか必要になったらいつでも起こしたって下さい」
「ああ、では僕も…」
と、黒井と王もそれぞれソファで就寝組。

残り一つのソファにちらりと視線をやり、フランはにこりと
「英二も寝ておきなよ。疲れてるでしょ」
とうながすが、英二は

「いや…寝れねえからいい」
と、小さく首を振ると、こいつ寝かせておけ…と、黒井から受け取って床に放置していた英一をフランに押し付けると、唯一船から持ち出したバイオリンケースを手にした。

そして普段のぶっきらぼうな態度からは想像できないような繊細な手つきで中から愛器を取り出して構える。

綺麗な…しかしどこか悲しげな音色。
静かに静かに奏でられるその音は決して安眠を阻害するようなものではない。


「…ただで…加瀬…英二のヴァイオリン聴きながら眠るなんて…すごぃ…ぜいたく…ですわ…」
すでに眠そうな黒井の声に、王も黙って頷いた。

「…来た甲斐…あった…気ぃ…しま……」
それが黒井の最後の声で、疲れもあったのだろう、あとは寝息へと変わっていく。

「寝つく寸前までおしゃべりって…すげえ根性だな」
その様子にギルベルトがクスリと笑みを零す。

今回は黒井のポジティブさ明るさに救われた気がする。

「まあ…結局みんな何のかんの言って眠れるみてえだな。
水木さんは?どうするよ?」
「いや…俺はさすがに眠れそうにないよ」
と首を振る水木。

「お兄さんも眠りそこねちゃったからい~れ~て~」
と、そこにカップを3つ持ったフランシスが寄ってきた。

はい、と渡されて一瞬受け取るのを躊躇する水木に、フランシスは

「トーニョが言ってたからね。
坊ちゃんが飲む可能性のあるものに害のあるものは入れないだろうし、お兄さんがさっき毒見したから大丈夫だよっ」
と、二人に向かってウィンクをする。


ああ、フランシスもこういう時は必要な空気を作ってくれるので本当に助かるな…と、ギルベルトは礼を言ってカップを受け取った。



 Before <<<    >>> Next


0 件のコメント :

コメントを投稿