続恋人様は駆け込み寺【白雪姫の継母は毒林檎を差し出し赤の女王は首を刎ねろと叫ぶ】11

一方で2階の生首部屋…。


「アーサーさん、見ない方がっ!!」
と、テーブルの上に気付いて慌てて言うマシューを制して、アントーニョは真っ青な顔のまま硬直するアーサーの肩をポンポンと軽く叩いてのんびりとした口調で言った。

「よお出来とるわ。アーティ、よく見てみぃ?あれ、エンリケの人形やで?」
「はぁ?!」

アントーニョの言葉にマシューは普段のおっとりとした演技も忘れて中へと駆け込み、蝋燭を消さないように気を付けながらもテーブルに近づくと、マジマジと生首を観察する。

本当に近くで目を凝らすと、それが精巧に作られた人形であることがわかる。

そう思って冷静になれば、血が流れてきた時間を考えると死にたてではありえない遺体の首としては、生前の肌の色を保ち過ぎているし、硬直も見られない。

「…ほんとだ……。こんな暗がりで遠くから人形だなんてよくわかりましたね」

ずり下がった眼鏡をなおしつつ、もう一度しげしげと観察するマシューに、アントーニョは当たり前に

「ん~、なんか元動物って感じがせえへんねん、その首。
爺ちゃんと紛争地域とかもかなり回って結構な数の死体とか見て来てんけど、本物はなんかちゃうねん」
と、すさまじい言葉を吐き、マシューのみならずその場にいた皆を唖然とさせた。

何を考えてそんな所に孫を連れ戻しているのだ、ローマ老っ?!

「血ぃは本物やけど…全然固まってへんてことは、薬入れとるな」
と言われて改めてみると、確かにそうである。
普通なら乾いて茶色になっているであろうあたりも真っ赤なみずみずしい液体のままだ。

そうとわかってマシューがあらためてテーブルの仕掛けを観察してみると、生首の中に血液らしき赤い液体が入っていて、それが少しずつ流れ出すようになっている。

アントーニョいわくその液体は本物の血と言うことなので、それだけの量を手に入れて、その血液が固まらないように抗凝固剤を混ぜて生首の中に詰めるなど、簡単な作業とは言えない気がした。

「脅したいだけのいたずらにしては…あまりに手がこんでますよね……」

汚れた手をハンカチで拭きながら、さらに何かないかと周りを見回すマシューに、アントーニョは

「いたずらやないけど…脅したいんちゃう?本人言うとったやん、さっき」
と、興味なさげに肩をすくめるが、そこで腕の中でビクっと身をすくませる愛しい恋人に気付くと、

「ああ、アーティの事ちゃうよ?
たぶん…あいつの言う裏切り者言うんは、さっき逃げた奴ちゃう?
身に覚えめっちゃありそうやったやん」
と、安心させるように優しくほほ笑むと、チュッと軽く口づけを落とす。


「…本当に?」
と、あの思い切りトラウマを作ったストーカー事件からまだ半年しか経っていないこともあって、ひどく不安げな目で見上げてくるアーサーに、

「ほんまに。絶対や。安心し」
と、アントーニョが断言すると、アーサーは少しホッとしたように息を吐き出した。


まあ…あの時携帯を取り上げて、あのユダの裏切りうんぬんのメールを見せずに済んで本当に良かったと思う。

あれを見ていたら、エンリケ関係に関してはひどくナーバスになるアーサーのことだ、ショックで倒れかねない。


しかし実の従兄弟で、奇しくも同じ相手が好きなアントーニョとしては、わかるのだ。

執着しすぎて取る態度がアーサーにとっては十分気味が悪くダメージになるという事は確かなわけだが、どれだけ拒絶されようと、自分的に嫌な態度を取られようと、エンリケは意図的にアーサーを傷つけようとは思わないはずだ。

アーサーに対するそれは飽くまで好意と執着から来る行動で、悪意ではないのだ。

まあ…自分にとっては幸いにして、エンリケにとってはあいにく、それはアーサーには微塵も伝わっていないわけだが…。


「とりあえず…この部屋にはさっきの奴に対する嫌がらせの道具しかなさそうやで?
血文字のからくりはわかったわけやし、館は広いし、探索するにしても明日、日中の明るい時間の方がええんちゃう?」

とアントーニョが言ったのは、飽くまで大事な恋人がひどく疲れた様子をしていたからだったが、

「確かに…暗い中だと色々見落としそうですしね」
と、マシューもそれに同意し、

「ほんなら、リビング戻って朝まで休みますか。交代で見張りして」
と、黒井もそれに同意した。




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