「なるほど…そういう事だったのか…」
水木から遅れて水木を追って2階から降りてきたギルベルトは少し離れた場所でエンリケと水木のやりとりを観察している。
そのさらに後方にはギルベルトに付いてきたフランと王。
あれは誰?!水木先輩とエンリケってどういう関係?!」
フランは生首があった二階方面ともう一人のエンリケがいる入口方面を交互に見回してひたすら混乱し、王はおろおろと
「他の皆さん来ませんねっ。分かれてたら危険ですし私呼んできましょうかっ」
としきりと上を気にしている。
そんな中でギルベルトは新しく入ってきた情報を整理していた。
もし黒幕がエンリケであるとしたら、本当の目的は加瀬兄弟ではないのは確かだ。
加瀬兄弟の事件は単に、これは芝居でもなんでもなく実際に人が殺されるのだというプレッシャーを与えて、あわよくばギルベルトを犯人として追いつめられれば…というもので、もう一つの目的は実は半年前、自分たちがエンリケにストーカーされて困っていたアーサーに手を差し伸べた時に自分にエンリケの行動を密告してきた密告者だったのであろう水木に対する復讐だったのだ。
普段無気力な分、良くも悪くも興味を持つと異様に粘着質なエンリケの事だ。
密告者を突き止めて復讐するくらいはするだろう。
黒魔術めいた事は以前もやっていた。
…が、死んで生首となって、悪魔との契約を結んで別の体で行動なんて事は、リアリストのギルベルトには到底信じられない。
どういうトリックだ?
さっきの生首はどういう状態だった?
テーブルはテーブルクロスがかかっていて中は見えなかったから、穴のあいたテーブルに体だけ隠れていたとか?
でもこの短時間にどうやってあの2階の部屋から着替えて外まで出た?
クルクルと色々な可能性が回る。
とりあえず…目の前のエンリケをふん縛って2階のあの部屋の生首と並べてみればハッキリするのか…。
そう思って階段の陰から飛び出してエンリケに特攻しようとするギルベルトだったが、いきなり
「ギルベルトさんっ!危険ですっ!」
と腕をしっかりと掴んでそれを阻止して言う王の声に、せっかく気づかれずにいた存在を気づかれてしまったようだ。
一瞬驚いたように目を見張るエンリケは、すぐにやりとまた笑みを浮かべる。
「相変わらず…こっそりと他人を陥れるんが好きな男やな」
「…お前に言われたくねえよ。
俺や水木先輩はとにかくとして、本気で関係ねえやつ巻き込んでんじゃねえ」
「そんなん…自分のせいやん?
自分が面白半分に俺からあの子を引き離そうなんてするから…」
「…アーサーの事なら…明らかに迷惑がってたのをいい加減認めろっ」
「そんなん、自分らがあの子に言い含めてそう思わせたんやろうが」
「…ギルベルトさん…上の様子が心配じゃありませんか?」
と、ツン…とその袖口を引っ張って延々と続きそうな言い争いに終止符を打ったのは王だ。
ああ、確かにこれが何かの時間稼ぎとも限らない。
そもそも今は一応敵側だと知られたくないらしいので、エンリケがやばくならない限りは王も敵対行動は取らないだろうが、黒幕であるエンリケが危ないとなれば、正体をあらわして敵対する可能性は高い…。
そうなれば王を背にして、しかもフランをそこに残してエンリケに向かったら、背後をから挟み打ちで2対1で戦うことになる。
そういう意味では多少は武道の経験を積んでいる自分と違ってフランシスは役に立たないし、水木だってどう見ても戦力にはなりそうになく、二人とも下手をすれば人質にされかねない。
そうなったらかなりきつい。
――ここは…引くしかねえか…。仕方ねえ…
と、ギルベルトは内心舌打ちをして、しかしそんな様子はおくびにも出さず、
「俺がエンリケの気を引いておくから、フランと王は水木さんの回収頼む…。
回収したら即撤退。二階組と合流な」
と、どうやらエンリケから引き離して2階に戻したいらしい王の意見を受け入れて指示をする。
「わかりました。危険ですし絶対に深追いはしないで下さいね。
水木さん回収したら即撤退しますよ?」
と、言う王に頷いて、ギルベルトは飛び出した。
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