ああ、あの得体のしれない目…。
あの目から逃れたくて自分より強い意志を持った後輩に秘かにすがったのに…。
ああ…恐ろしい…
あの男はまったくもって恐ろしい…。
冷静な人物であれば普通にそう思うところではあるが、元々メンタルが強くなく、さらに少々身に覚えのある人間が、長年怯えてきた相手の…さらに生首に出会ったのだ。
少しでも距離を取ろうと逃げだしもしたくなる。
水木は部屋の前から一目散に階段に。
あの生首が言う【裏切り者】とは間違いなく自分のことだという自覚はある。
とにかくエンリケから離れなければ…と、螺旋階段をかけ降りて、館から逃げるべく外へのドアへと駆け寄ると、ギィィ……と開くドア。
……どこへ行くん?
おりしもドドーン!という音と共に光る雷を背負ってびっしょりと雨に濡れた男が立っていた。
そう…たった今逃げてきたはずの生首と同じ顔をした……
端正なその顔にはかつて…男が学園からいなくなった半年前まで、常に水木を委縮させ怯えさせたあの温度を感じさせない笑みを浮かべていて、水木は自分の中から血の気がさ~っと引いて行くのを感じた。
「……あ……あ………」
言葉もなくガタガタ震えている水木に、男は笑みを浮かべたまま静かに語る。
「…味方やと思っとったさかい、陰で裏切ってたと知った時はショックやったわぁ…。
俺は皆に優しい親切な男でおったのに――俺の大事なモンにちょっかいかけてくる敵以外には。
……こうなると…むしろ敵より憎くなるやんな?
そう…自らの身を悪魔に売ってでも呪いたくなる程度にはなぁっ水木!!」
カッ!!と開かれた目に再度鳴る雷。
「自分だけは…自分だけは幸せな人生なんて歩ませへん…。
…生きている限りは自分の周りでは不幸が続き、死んだらその魂は地獄行きやで?
はは…嬉しいかぁっ?嬉しいかぁ?
自分が貶めた相手が自らの命を投げ打ってまでかけた呪いや…」
「うっぁ…ああああぁぁ~~!!!!」
生首となって死んだはずの男の独白に水木は頭を抱えてへたり込んだ。
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