続恋人様は駆け込み寺【白雪姫の継母は毒林檎を差し出し赤の女王は首を刎ねろと叫ぶ】13

「んで、この際だから聞いちゃうけど…半年前のエンリケの件で俺にメールくれたのって水木さんって事でいいんすよね?」
ずずっとカップの中のコーヒーをすすりながら、ギルベルトは即本題に入る。

水木はそれに小さく頷いた。
まあ、ここまでくれば確定だろうが…。

「あれ…結局エンリケにバレてたんです?」
とさらに聞くと水木は青ざめた顔で身震いした。

「…バレてない…って思ってた…けど、あいつやっぱ普通じゃないから……。
昔から違ってた…。
にこやかに見せて…穏やかに見せて……でもいったん敵認定するとすごいんだ…。
陰湿で…粘着質で…周りにはそうとわからないように、陰で貶める。
相手が潰れるまで…。
怖かった…離れたかったけど…離れたら次のターゲットになるからと思って……」

「自分はリスクを負わないようにして、俺様に逆に潰してもらいたかった…と」
ギルベルトは片手で綺麗な銀髪をクシャっと掴んで息を吐き出した。

信念、友人、その他大事なモノのためには時にはリスクを負っても貫かなければならないものはあると思うが、自分だって平気なわけでない。

そんなギルベルトの憮然とした心中にフォローをいれようと思ったのか、フランが

「ギルちゃんは優秀だし、意志も強いしね。
一般ピープルには太刀打ち出来なくてもギルちゃんならって思っちゃうんだよね」
と言うが、これは逆効果で

(俺様が意志が強いわけでも生まれながら優秀なわけでもなくて、俺様は色々に耐えて努力して考えて結果を出してるだけで、友人でもねえそれをやらない赤の他人にさらに面倒事を押しつけられるために精進してるわけじゃねえよ…)

ともやもやとした気持ち…端的にいえば――ずるい…――という気持ちが胸の奥でどろどろと渦を巻く。
出来る奴だから押し付けても構わない…と言うのは違うと思う。

(ああ…でも今はそんな感情出したらまずいな。)

と、それでもその黒い気持ちを飲み込んで、ギルベルトは

「まあ俺様が優秀なのは確かだし?そう思うのも仕方ねえ事かもしれねえけどな」
とことさら明るくフランの発言に乗ってやる。

優秀である…という事に加えて、その鉄の理性のために厄介事をどんどん持ち込まれる事に、この他の事には非常によく気がつく青年は気づかない。
ゆえに不憫の称号を一身に受けることになっているのである。


そして…神様と言うのは真面目にやっている者よりも、時として好きに生きている人間のほうにころりと幸運を授けたりすることがままあるようだ。

厄介事を一人楽しく一身に背負った青年がこれからの事に頭を悩ませている一方で、暖炉近くのソファーの陰には棚からぽてんとぼた餅のように最愛の恋人を手に入れた、神様に確実に愛されているのであろう強運の男。

見ず知らずの人間も含めたこの場にいる人間全員の事を思う不憫な彼とは違い、男が頭を悩ませるのは最愛の恋人についてだけだ。

自分に対するストーカー行為で始まった一連の事件から派生したのではと思う今回の事件に、男、アントーニョの恋人のアーサーは眠れないでいる。

責任とストーカー相手に対する恐怖と不安に、大きなペリドットのような丸い目をしっかり見開いたまま考え込んでいる恋人の緊張をほぐそうと、アントーニョはチュッチュッと恋人の顔じゅうに軽いキスを落とし始めた。


(…おい…何してんだよ……)

くすぐったさと照れくささに身をすくめながら小声で言うアーサーに、アントーニョはにやりと

(ん~、キス?アーティ可愛え)
とマイペースに返す。

(なんで今?)
と、そのうちいたずらにくすぐりだしたアントーニョの手を避けつつもくすぐったさにクスクス笑うアーサーは可愛い。

(したかったからやで?)
と、そんな可愛い恋人にさらにくすぐりながら口づける。

不安げにしている様子も可愛ければ、くすぐったそうに笑う様子も可愛い。

付き合い始めたのは半年前だが、それまでの人生、とても損をしていたと思う。
とにかく離れて生きてきた分の損を取り返さなければ…と、アントーニョは日々恋人を眺め、愛で、構い倒すのである。




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