そんな、構われ倒されているアーサーの側にしてみれば、本気でわけがわからず、意味もなく、感情のままに行動しているような恋人に、不安な気持ちが霧散していくが、日常的な感覚が戻ってくると、今度は別の困惑と焦燥にアーサーの大きな澄んだ眼が揺れた。
急に反応が薄くなった恋人にアントーニョは少し心配そうに形の良い眉を寄せる。
そうやって真面目な顔をする恋人は本当にカッコいい…とアーサーは再認識した。
なにしろアーサーにとってはずいぶんと長い間告白することも出来ずに片思いをしていた相手だ。
付き合ってくれというエンリケの申し出が頻繁すぎてうっとおしかったのを良い事に、さもそれを一人ではどうしようもなくて困っているから断る理由に嘘でもいいから仮の恋人が欲しいと騙して付き合いを始めたのが交際のきっかけだった。
そのくらいなりふり構わずそばにいたかった相手である。
そんな相手が半年前、互いに保護者が海外在住の一人暮らしだったところに、エンリケにストーカーされていて、もし一人で家にいるところに来たら危ないから…と、一緒に暮らし始めてからは、日々身の回りの世話をしてくれているのだ。
そして…一応そばに住んでいる伯母が名目上、国内での保護者という事になっているが、一緒に暮らしているわけではなく、しかも女性の伯母に教わる事が出来ない事は、アントーニョが教えてくれた。
まあ…アレである。
第二次性徴が来た少年には当然ある、アレだ。
毎回どうしていいかわからず眠っている間に下着を汚してしまっていたアーサーに、適度に抜くことを教えてくれようとしたのだが、男性社会から少々距離があったアーサーはなんとなく抵抗があるというか、自分でうまくすることができず、結果…アントーニョの世話になっている。
自分ですることに抵抗があっても、恋人にしてもらうのは良いのか…と、アントーニョ的には不思議に思わないでもないのだが、ずっと手放す気がない以上、自分に依存させる部分は多い方が良いと絶賛放置中だ。
それに何よりそんな恋人が可愛い。
まあ気持ちが少し落ち着いてくると、そんな日常的な欲求もでてくるわけで……
(……なんでも…ない…)
お年頃である身体的にはじゃれあいの刺激で溜まっている事を認識しても、こんな時にそんな事を口に出せるはずもなく、アーサーは少し視線を逸らして白い頬を赤く染める。
(あ~…そうかぁ…)
と、普段のKYは実はAKYなんじゃないかと思うくらい恋人の事には敏いアントーニョはそれで察して小さく笑みを零した。
恥ずかしそうに耳まで赤く染めて目を潤ませる恋人は壮絶に可愛らしい。
(…抜いたろか?)
とストレートに聞くと、ビクン!と身を震わせて、ぶんぶんと首を横に振った。
(そのままやと、辛いやろ?)
爽やかなまでにあっけらかんと言うアントーニョにアーサーは羞恥で真っ赤になる。
そんな恋人が可愛くて、アントーニョが反応し始めてしまっているアーサーのソコに手を伸ばすと、アーサーは目じりを赤く染めて、…んっ……と小さく可愛らしい声を漏らしてしまい、慌てて片手で自分の口をふさぎながら、もう片方の手でアントーニョの手を制した。
(…トーニョ……やだ…。声出ちまうし……恥ずかしい……)
と、大きな瞳にじわりと浮かぶ涙。
ああ、もう可愛すぎてどうしてくれようか…と、緩む頬を隠そうともせず、アントーニョは
(確かに…可愛えアーティの声を他の奴らに聞かせんのも癪やんな)
と、目元に口づけていったん手を引っ込める。
…が、このままでは辛くて可哀想だ、と、アントーニョは起き上がると、不思議そうに見上げてくるアーサーを助け起こした。
そしてそのままアーサーの手を引いてダイニングへと続く戸口へ。
「おい?」
と、当然声をかけてくるギルベルトに、
「ちょおダイニング使うわ~。すぐ戻るから気にせんといて。戻るまでは来んといてな。来たら誰かて殺すで?」
と、朗らかに宣言するアントーニョ。
普通なら止めるところであるが、自分と違い恐ろしく強運なこの幼馴染に何かあろうはずがなく、しかも決して譲ることのないこいつを下手に止めたら自分の方が危ういというのはギルベルトは嫌というほど知っている。
「お前…」
はぁ~と不憫な一人楽しすぎる男はこれを止めようとはせず、ただ大きく息を吐き出した。
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