「ああっ!もう、しつこいなっ!
おっさんがキャンキャンうるさくまとわりついても、うっとおしいだけなんだぞっ!
まだそのあたりの犬猫なら絡んできても可愛いのにっ!!
君のそういうところが大嫌いさっ!!ホント、犬猫以下だよっ!」
ただ歩きながらハンバーガーを食べるのは行儀が悪い。
また口元にパンくずをつけて……と、その口元についたパンくずをハンカチで拭いてやっただけだったのだが、それが気に障ったらしい。
子ども扱いしないでくれよっ!!!
と、アメリカは不機嫌に叫んだあとに、冒頭のように続けた。
吐き捨てるような罵られ方は慣れたつもりだった…が、今はようやく体調が悪くなる7月初旬を越し、7月中旬、腐れ縁の誕生日を数日すぎたあたりだ。
まだあまり体調がよくない事もあったのだろう。
言葉が…アメリカが遠く感じる。
――世界で一番大好きだぞっ!
と、かつて天使の笑顔で言ってくれたその唇が、犬猫以下だと吐き捨てるように言うのをイギリスはまるで他人事のように聞いていた。
(そうか…犬猫の方がマシ…なのか……)
その言葉がズキっと痛む胸の奥にストンと落ちてくる。
かつて確かにそこに存在していたと思っていた愛されていた時代が、まるで蜃気楼のように揺れて消えた。
掴んだと思った幸せは、幻だったのだ…と、悲しいのに涙より笑いがこみあげてくる。
(俺なんかより、犬猫…なら、誰かが愛してくれたのか…ああ、そうか。俺なんか必要なかったんだ……)
ほとんどそれは無意識だった。
手に握ったのは先に星形の飾りのついた杖。
――ほあた…
と、呟けば、犬猫以下のイギリスは煙となって消えた。
「とにかくねっ!君はもっと超大国の俺を認めて頼ってくれてればいいんだぞっ!
そうすれば俺だって小さな島国の一人くらい余裕で守ってやれるんだからねっ!!
……聞いてるのかいっ?イギリスっ!!」
ツカツカと会場の側の一緒に夕食をとる予定だった店までと歩いていた歩みを止め、口調は不機嫌に…しかし少し照れたように若干顔を赤らめて言ったアメリカは、返事がないことを不審に思って振り向いた。
「…イギリス?」
確かにすぐ後方にいたはずの見慣れた姿が忽然と消えた事に、アメリカは一瞬目を丸くして、それからすぐ舌打ちをする。
「…ったくっ!!他人の話は最後まで聞けっていつも言ってるのは君なのに、君はホントに俺の話を聞きゃあしないだからっ!!!」
と、言いつつ、アメリカは茶色のジャケットを翻しながら元来た道を引き返して行った。
――ミィィ~!
ガツンっ!と音がするほどの勢いで地面を蹴る大きな足を慌てて避ける小さな子猫。
避けた勢いで転んでしまうくらい足元が覚束ない小ささの金色の毛並みの子猫だ。
ぽてんと尻もちをついて、つぶらな丸い目で走り去る超大国に文句を言うように一声鳴いたが、そのか細い鳴き声は急ぎ走り去るアメリカの耳には届かなかったようだ。
――ミィ……
子猫はウィンドウに映る自らの姿を確認するように、ピカピカに磨き上げられたビルのショウウィンドウにとてとてと近づくと、てふてふと柔らかい金色の足で窓ガラスを叩く。
そして…その前足を小さな顔の前に持ってくると、途方に暮れたように見つめて、また小さく――ミィ…と鳴いた。
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